tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『神の島のこどもたち』中脇初枝

神の島のこどもたち (講談社文庫)

神の島のこどもたち (講談社文庫)


青い空を沖縄に向かって飛ぶ特攻機、天国のように美しい海には死んだ兵隊さんが浮かぶ。第二次大戦末期、小さな島沖永良部島に暮らすマチジョーとカミは、大切な家族を失い、食料にも不自由する日々を過ごしていた。それでも唄い、恋をし、ひたむきに働き、生き抜く。南の島に刻まれた知られざる戦争の物語。

中編が2つ収録された連作集だと思いきや、もともと単行本では『神に守られた島』と『神の島のこどもたち』の2冊に分かれて刊行されていたようですね。
今回、文庫化にあたって、2冊を1冊にまとめたということのようです。
同じ人物が登場して、物語としてもつながっているので、よい判断だったのではないかと思いました。
戦争に翻弄された小さな奄美の島に生きる少年少女を描いた物語で、有川ひろさんの『アンマーとぼくら』に続き二連続で南の島の話を読むことになりました。


とはいっても、本作の舞台は沖永良部島
歴史的には琉球文化の影響が濃いながらも鹿児島県に属していて、沖縄本島とは似たようでちょっと違う。
では、どう違うのか?ということを、本作を読んで知ることができました。
太平洋戦争と沖縄というと、ひめゆり学徒隊だとか集団自決だとかの話がすぐに思い浮かぶと思います。
けれども、沖永良部島は戦時中、あるいは終戦直後どのような状況だったのか、メディアで取り上げられることも少ないので、詳しく知っている人は少数派なのではないでしょうか。
空襲などはあったものの、幸い集団自決を強いられるような悲劇は免れたということ。
終戦後、沖縄とともに沖永良部島を含む奄美群島アメリカ軍の統治下に置かれ、日本本土へ行くには密航するしかなくなったこと。
奄美群島を分割して日本に返還するという方針を示したアメリカに対し、子どもたちも巻き込んで激しい復帰運動が島民たちにより展開されたこと。
その結果、沖縄よりも先に本土復帰を果たしたことーー。
それらすべて、全く知らなかった自分に愕然としました。
同じ国のことなのに、今まで関心を持たなかったばかりにいい歳をして何も知らなかった自分を情けなく思いましたが、たまたま「小説として面白そうだから」という理由で手に取った本作のおかげで知らなかったことを学ぶことができ、何でも幅広く読むべきだという思いを新たにしました。


「神に守られた島」では小学生の男の子、マチジョーの視点で戦中から終戦直後の沖永良部島が描かれます。
幼なじみの少女カミを小さな体で精いっぱい守ろうとするマチジョーの健気さが切なくて心を打ちました。
そして、終戦からしばらく経ち高校生になったカミの視点で、沖永良部島が本土復帰する過程が描かれるのが「神の島のこどもたち」です。
2つの物語を通して強く感じたのは、子どもは無力な存在で、そんな子どもたちをも容赦なく巻き込んでいく戦争の無慈悲さでした。
戦時中はマチジョーもカミも、他の子どもたちも、親や学校の先生たち、近所の大人たち、そして日本軍の言うことを素直に信じ、軍国少年・少女として生きる以外の道はありませんでした。
ところが、日本人として日本の戦争をともに戦ったはずが、戦争が終わるとその日本は沖永良部島の住人にとって「外国」になってしまいます。
終戦後に本土は目覚ましい復興を遂げた一方、アメリカ軍政下に置かれた沖永良部島はいつまでも困窮し食料も衣服も不足したままという状況が続き、子どもたちも苦難を強いられます。
あまりにも長く続く理不尽な運命に翻弄される子どもたちの姿に胸が詰まりました。
けれども、子どもたちは小さく弱い存在ではありますが、同時にたくましく育っていく存在でもあります。
復帰運動にかかわる中で、のんびりした性格ながら自分なりに懸命に考えたカミが見出す、自分の将来の夢。
戦争の苦難を経験したからこその彼女の覚悟と決意に大きな成長を感じ、涙を禁じ得ませんでした。
子どもたちこそ、国の未来を担う大きな希望であり宝である。
それは、どんな時代でも変わらない真理なのだと思います。


作中には琉球方言が頻繁に用いられ、慣れるまで少し読みにくく感じましたが、大和言葉と完全にかけ離れた言葉というわけでもなく、次第に親しみを感じられるようになりました。
沖永良部島の食文化や、島唄や踊りの描写も興味深く、想像力をかきたてられます。
戦争を扱った作品ではありますが、子どもたちの生き生きとした様子は明るい雰囲気で描かれており、少年少女のさわやかな青春恋愛物語の側面もあり、重くなりすぎずさらりと読ませる作品です。
☆5つ。