tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『成瀬は信じた道をいく』宮島未奈


我が道を突き進む成瀬あかりの人生は、今日も誰かと交差する。お笑いコンビ「ゼゼカラ」ファンの小学生、娘の大学受験を見守る父、バイト先に現れたクレーマー、観光大使になるべくして生まれた女子大生。個性豊かな面々が新たな成瀬あかり史に名を刻むなか、幼馴染の島崎が故郷に帰ると、成瀬が書き置きを残して失踪しており……。最高の主人公が再び登場する2024年本屋大賞受賞作続編!

2024年の本屋大賞を受賞した『成瀬は天下を取りにいく』の続編です。
何をやっても優秀でいつも泰然としている成瀬あかりの物語が、成瀬の周囲にいる人たちの視点で描かれるという構成は前作とまったく同じですが、個人的には今作の方が圧倒的に面白く感じました。
前作では成瀬という人物像を把握するところから始まりましたが、今回は初めから成瀬がどういう人かわかっているので、物語により没入しやすかったからかもしれません。
それに、いろいろなネタが個人的に刺さったというのも大きそうです。


1話目「ときめきっ子タイム」は北川みらいという小学生の女の子が語り手です。
このみらいちゃんは、地元の「ときめき夏祭り」で司会を務め漫才も披露していた「ゼゼカラ」を見てファンになりました。
学校の課題で地元「ときめき地区」で活躍している人を調べることになったとき、みらいちゃんが真っ先に思いついたのはゼゼカラのこと。
運よく地元のパトロール中だった成瀬に遭遇し、課題のために話を聞かせてもらえることになった時のみらいちゃんの感想「トトロに会えたサツキちゃんとメイちゃんもこんな気持ちだったのかもしれない」には笑ってしまいました。
まさかの「成瀬=トトロ」説。
成瀬の他人への接し方が小学生相手でもまったく変わらないのも面白いし、そんな成瀬にどんどん夢中になっていくみらいちゃんがかわいいです。


2話目「成瀬慶彦の憂鬱」は成瀬の父・慶彦の視点で描かれる、成瀬の京都大学受験記です。
個人的にはこの話が今作の中で一番好きですね。
一人娘の受験に付き添うことになった慶彦ですが、高校の先生からは「合格間違いなし」と太鼓判を押されていて平常心そのものの成瀬よりも明らかに緊張していて、父の威厳などあったものではありません。
成瀬が合格したら家を出て行ってしまうのではと思い、合格はもちろんしてほしいけど娘と離れるのは寂しくてたまらないという複雑な父親心理の描写も絶妙で、読んでる方までドキドキしたり切なくなったりしてしまいました。
そんな慶彦お父さんは自分のような平凡な親から生まれた優秀すぎる娘のことを「突然変異で生まれたディープインパクト」と例えていて、トトロの次は競走馬!とこれまた笑わずにはいられません。
成瀬が入試会場で変な人物を拾って自宅に泊まらせてしまうエピソードも面白すぎました。


3話目「やめたいクレーマー」は無事に京大に進学した成瀬のアルバイト先「平和堂フレンドマート大津打出浜店」にクレームをつけずにはいられない主婦・呉間言実 (くれまことみ) の視点で描かれます。
基本的に無表情で愛想など皆無な成瀬に接客業であるスーパーの店員など務まるのかと思いきや、万引き犯を捕まえるという愛想はまったく関係ないところで活躍していて、適材適所というのはどんな人でもどんな場所でも見つかるものだなと感心してしまいました。
呉間も自分のことをクレーマーだと認識していますが悪質なクレーマーではなく、ちゃんと店のことを考えており、成瀬の万引き犯探しに協力するなど、意外にいい人です。
さらに呉間の夫が人畜無害を絵に描いたようないい人で、なんだかほっこりしました。


4話目の「コンビーフはうまい」は成瀬とともに「びわ湖大津観光大使」として活動することになった篠原かれん視点の話です。
祖母も母もびわ湖大津観光大使を務めた過去があり、父は大津市議会議員で、幼い頃から観光大使になるべく大津の文化や歴史などを叩きこまれた美人女子大生という正統派の観光大使であるかれんに比べると、成瀬は観光大使としては変わり種であることは明白で、かれんとの対比が面白いです。
でもかれんも実は撮り鉄でインスタグラムの裏アカウントに鉄道写真を載せているという一面もあって、なんだかんだと次第に成瀬と馬が合っていく過程を微笑ましく読みました。
ちなみにタイトルの「コンビーフはうまい」は成瀬の電話番号の語呂合わせだということなのですが……一体何番なのか最後まで読んでも謎は深まるばかりでした。


そして最終話「探さないでください」は成瀬の親友でゼゼカラの相方・島崎みゆきが視点人物として満を持しての登場です。
大晦日に成瀬が「探さないでください」という書き置きを残して姿を消し、サプライズで成瀬に会いに東京から帰ってきた島崎が、みらいちゃん、慶彦、呉間夫妻、かれんとともに成瀬捜索班を結成します。
オールスター大集合で最終話にふさわしい展開ですが、成瀬の行き先がこれまたここしかないだろうという納得感しかない場所で、なるほど!と膝を打ちました。
いかにも成瀬らしい目的地に笑いが込み上げてきますが、「成瀬あかり史」に刻まれるにふさわしいエピソードで、ちょっぴり感動さえしてしまいます。
「成瀬あかり史を見届けたい」という島崎の気持ちがよくわかりました。


「成瀬あかり」シリーズ2作目は、ただただ、ひたすら楽しく面白かったです。
随所に散りばめられた滋賀&大津ネタがこれまた楽しいのは言うまでもありません。
1作目がデビュー作でありながらいきなり本屋大賞受賞という大ブレイクを果たして、さて続編はどうかと思ったら、軽々と1作目を超えてきたことに感嘆しきりでした。
次の3作目『成瀬は都を駆け抜ける』がシリーズ完結編になりますが、これもまた期待できそうですね。
私も島崎とともに「成瀬あかり史」を見届けます。
☆5つ。




●関連過去記事●
tonton.hatenablog.jp

『プレゼント』


これはこれまで小説を愛してきてくれた人へ、そしてこれから小説の世界へ一歩踏み出す人へ贈る一冊のプレゼント。何気なく読んだ物語が、ふと目にした一行が、意外な言葉ひとつが、人生を大きく変える。現代を代表する7人の作家が「夏」をテーマに書き下ろした、驚きと切なさ、怖さと不気味さ、何よりとびきりの面白さを詰め込んだ奇跡の一冊。さぁ、あなたの人生に小説という選択肢を。

新潮文庫の夏のフェア「新潮文庫の100冊」が1976年に始まって、今年で50年。
その節目を記念して刊行されたアンソロジーです。
さすが50周年記念というだけあって、執筆陣が非常に豪華!
表紙の紙に高級感があり、タイトルは箔押しと装丁も凝っていて、そのせいかしばらく品薄になっていたらしく、私は何店か書店を回ってようやく手に入れることができました (ちなみにようやく見つけた書店でも最後の1冊でした)。
肝心の中身はというと、7名の人気作家が「夏」をテーマに書き下ろした短編集です。
各作家の個性が存分に発揮されていて、とても楽しく読めました。
では全7編の感想をどうぞ。


「ウッドペッカー荘事件」伊坂幸太郎
白河ヨフネという人物が解決した5つの事件を小説にして発表してきた尊 (そん)。
そんなヨフネと尊が「ウッドペッカー荘」というホテルに宿泊し、そこで6つ目の事件が起こるのですが――。
名探偵・白河ヨフネとワトソン役の尊が事件を解決するという、クラシックなミステリかと思って読み進めたら、最終的に思いもよらない展開になって驚きました。
こういう方向性で驚かせて来るとは思いませんでしたが、このひねり具合が伊坂さんらしいと言えば伊坂さんらしいですね。
「白河ヨフネ」という名前も好きだしキャラクター的にも面白かったので、また彼が登場する話を読んでみたいです。


「二つの宇宙」江國香織
大学1年生の夏、悠斗は彼女の茉莉加を連れて実家に帰ります。
実家には祖母がいるはずだったのですが、極度の人見知りである祖母は茉莉加と会うのを恥ずかしがったのか、出かけてしまっていました。
夏休みは帰省に合わせて家族に恋人を初めて会わせるという一大行事 (?) の時期。
日本各地で繰り広げられているであろうこの一大行事ですが、悠斗の場合は祖母も恋人の茉莉加もどちらもちょっと変わり者なので、それが19歳の夏という季節を特別で印象深いものにしています。
19歳という年齢は人生における夏だという、「夏」のダブルミーニングが効いていました。


「真実のトランク」宮部みゆき
53歳の教子 (のりこ) は弟が経営するバーの雇われマスター。
教子には20代前半の頃にもバーで働いていた経験があり、その時に客としてやってきた紳士と彼が持っていたトランクにまつわる不思議な体験をしていました。
ファンタジーなのか、SFなのか、ホラーなのか。
ちょっぴり怖くて、人情味も感じられるストーリーは「三島屋変調百物語」シリーズに通じるものがあり、今の宮部さんが現代物を書くとこういう話になるのだなと興味深かったです。
「そこらのおっさん (中略) には『微笑む』ことなんかできない」という一節には笑ってしまいました。
宮部さんのこういう観察眼、好きだなぁ。


「きっとあの日の光と同じ」町田そのこ
高校1年の夏休み、中学時代の同級生だった南戸 (みなと) と再会した稲橋は、彼女に誘われるまま一緒に映画を観て花火をすることになります。
親友の康生に彼女ができて拗ねていた稲橋は、南戸に心惹かれていきますが、彼女に韓国へ引っ越すのだと告げられます。
ひと夏の恋、それもとびきり甘酸っぱくて切ないやつ。
夏がテーマの作品集には欠かせないタイプの作品ですが、結末がまた素敵でした。
こういうのも腐れ縁というのかな。
なんだか愉快な気分になれる恋愛小説でした。


「無明」米澤穂信
真夏の新宿駅東西自由通路で、女性が赤ん坊の首を絞めるという事件が発生。
女性は逮捕され、赤ん坊は一命をとりとめますが、捜査にあたった警察官の渡部は女性に殺意があったのか疑問を抱きます。
近年は「死ぬほど暑い」という比喩表現だったはずの言い回しが文字通りの意味になってきていてシャレになっていませんが、そんな状況を活かした (?) ミステリです。
これは「ホワイダニット」になるのでしょうか、女性の「動機」が思いがけないもので、胸を突かれました。
最後の一文が非常に印象的です。


「見越しのマツ」梨木香歩
自宅の向かいの邸宅の庭に生えている立派な松の木が、邸宅の取り壊しに伴い切り倒されたのを残念に思った真美子。
その後その邸宅跡に新しく建った家の居間は真美子の部屋から丸見えで、ある日真美子はとんでもない事故を目撃します。
これまたファンタジーというのかホラーというのか、とても不思議な物語でした。
松の木が、陸前高田市の松原の話につながっていくのが印象的です。
自然の脅威と神秘を感じる、短いながらもスケールの大きさを感じさせる話でした。


「伝説の季節」恩田陸
高校3年生の春 (しゅん) には、ある秘密がありました。
それは「俺は今年のサヨコだ」ということ――。
いやあ、まさか恩田さんのデビュー作である『六番目の小夜子』のスピンオフが読めるとは思わなかったので、うれしい驚きでした。
とはいえ私が『六番目の小夜子』を読んだのは20年以上も前で、さすがに細かい内容を忘れてしまっていて、十分にスピンオフを楽しめたかというと自信がありません。
かろうじて春が『六番目の小夜子』に登場する秋 (しゅう) の兄であるということはわかったので、前日譚であると理解できました。
これはもう『六番目の小夜子』を読み返すしかないですね。


人気作家ばかり、個人的にも好きな作家さんばかりで非常に満足度が高かったです。
7編も収録されているのに300ページちょっとしかないというのが意外なほど、ジャンルも読み心地もバラバラで濃い内容でした。
帯に書かれている「どの世代の誰にとっても楽しめる『読書の入り口』にぴったりな一冊」という説明がまさにドンピシャ。
「新潮文庫の100冊」50周年にふさわしい作品集です。
☆4つ。

『難問の多い料理店』結城真一郎


ビーバーイーツ配達員の僕は、東京・六本木の雑居ビル内の料理店へ今日も向かう。この店では、特定メニューを組み合わせた注文が、謎解きの依頼だ。不審な焼死体が出たアパート火災、空室に届く置き配、指のない轢死体……オーナーシェフは、配達員を使って難問を解く。だが、僕らに告げる。口外したら命はない、と。『#真相をお話しします』の著者が描く、新時代ミステリ。

タイトルは明らかに宮沢賢治の『注文の多い料理店』のもじりですが、本作は宮沢賢治とはまったく関係ありません。
現代ならではの一風変わった料理店を舞台にした連作ミステリです。
ただ、ミステリとしてもこれまた一風変わっていて、ミステリを読み慣れている人ほど戸惑う部分が多いかもしれません。
逆に言うと、オーソドックスなミステリは読み飽きたからちょっと毛色の違うものを読みたい、というような人の期待には大いに応えてくれる作品です。


六本木の雑居ビル3階にあるその ”店” は、調理設備のある貸しスタジオ。
実はここは、串カツ店やカレー店や中華料理店など、優に30を超える複数の料理店の料理を同一の調理場で調理し、フードデリバリーの配達員に注文した客の元へ運ばせる、いわゆる「ゴーストレストラン」なのです。
さらにこの店が普通でないのは、客がある特定の組み合わせのメニューを注文すると隠しコマンドが発動し、浮気調査や謎解きなど探偵事務所のような仕事も請け負うということ。
白いコック帽とコック服に青いチノパンといういでたちのオーナー兼シェフは超絶美形ですが、感情の見えない洞のような瞳の持ち主で、隠しコマンドを発動した客からの依頼内容を配達員を通して聞き、時には配達員に追加の調査や聴取をさせて、どんな不可解な謎であったとしてもたちどころに解いてしまいます。


フードデリバリー (作中では「ビーバーイーツ」というデリバリーサービスが登場します) はコロナ禍をきっかけにすっかり定着しました。
実は私は一度も利用したことがないのですが、利用した (している) という人の話はよく聞きますし、知り合いに配達員をやっている人もいます。
けれども「ゴーストレストラン」というものの存在は本作を読んで初めて知りました。
よくあるものなのかはわかりませんが、いかにも東京のような都会にありそうだなという感じがします。
本作のゴーストレストランのオーナーシェフは店 (調理場) から離れることなく、配達員が動いて探ってきた手がかりを元に謎を解くという、非常に現代的な安楽椅子探偵です。
事件自体も現代的なものがいくつかあり、例えば5話目の「悪霊退散手羽元サムゲタン風スープ事件」は住人不在の部屋の前に毎日のように宅配フードが置き配で届くというフードデリバリーそのものが関わってくる事件ですし、3話目の「ままならぬ世のオニオントマトスープ事件」はSNS利用者のリテラシーが物語に絡んできます。
特に「ままならぬ世のオニオントマトスープ事件」は、SNSを利用する人なら誰もがドキリとするような展開になっていて、謎解きを楽しみつつ、SNSへの投稿の際にはあれこれ気をつけよう……と思わされました。
このあたりはさすが、YouTuberやリモート飲み会など近年のIT技術の発展によって登場したものを謎解きに取り入れたヒット作『#真相をお話しします』の作者らしい着目点だなと感心しきりでした。


ただ、ミステリとしては読み進めるにつれて「あれ?」と思うことが多くなっていきます。
1話目の「転んでもただでは起きないふわ玉豆苗スープ事件」で描かれる、大学生の住むアパートの部屋が火事になり、その大学生が迅速に動いてアパート住民は全員避難できたにもかかわらず、焼け跡から女性の焼死体が発見されたという事件。
2話目の「おしどり夫婦のガリバタチキンスープ事件」で描かれる、交通事故で死亡した男性の指が2本欠損していたが、欠損したのは事故の半年ほど前だったにもかかわらず同居の妻が欠損の事実に気づいていなかったという謎。
どちらもゴーストレストランのオーナーシェフが見事に謎を解くのですが、よく考えると提示された「真相」には証拠となるものがなく、「いちばん筋が通る可能性」でしかないのです。
果たしてこれは本当に「謎が解けた」と言えるのか?と思いながら読み進めていくと、4話目の「異常値レベルの具だくさんユッケジャンスープ事件」で、オーナーシェフの「探偵」という役割を根本的にひっくり返すような結末を突き付けられました。
そしてはたと気づくのです。
謎といえばこのオーナーシェフこそが一番の謎である、と。
容姿については各話ごとに異なる配達員たちの目線で描写されていますが、ゴーストレストランのオーナーシェフであるということ以外は氏名すらも不明で、何者なのかよくわからないのです。
やがて「自分は探偵ではなく、客が求めているものを作って提供するシェフなのだ」というオーナーシェフの言葉が登場して、ようやく腑に落ちた気がしました。
本作において謎に対する「答え」として提示されるものは、真実かどうかはわからないのです。
謎解きだけでなく、この奇妙な店やそのオーナーシェフに関する説明や匂わされていることも、どこまで本当なのかはわからない。
さて何が「真実」なのかといろいろ想像力を働かせると、疑問が疑問を呼んでなんとも落ち着かない気持ちになり、その「わからなさ」がもたらす恐怖感に近い感情をかき立てられる物語は、ミステリというよりはむしろホラーに近いのではないかと感じました。


ミステリはいろいろ読んできた私ですが、本作は今までに味わったことのないような読み心地で不思議な感じがしました。
変わり種ミステリではありますが、フードデリバリーの配達員たちの人生の物語でもあり、読みどころは多いです。
それにしてもいろんな料理名が登場しましたが、肝心の味はどうなんでしょうね。
少なくとも餃子は冷凍食品だという描写があり、本格的なものは期待できないでしょうが、メニュー名だけ見るとおいしそうなのでお腹は空いてきそうです。
☆4つ。




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