tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『かがみの孤城』辻村深月

かがみの孤城 上 (ポプラ文庫 つ 1-1)

かがみの孤城 上 (ポプラ文庫 つ 1-1)

かがみの孤城 下 (ポプラ文庫 つ 1-2)

かがみの孤城 下 (ポプラ文庫 つ 1-2)


学校での居場所をなくし、閉じこもっていた“こころ”の目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。
輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。
そこには“こころ”を含め、似た境遇の7人が集められていた。
なぜこの7人が、なぜこの場所に――
すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。
本屋大賞受賞ほか、圧倒的支持を受け堂々8冠のベストセラー。

2018年の本屋大賞を受賞した作品です。
他にもダ・ヴィンチのBOOK OF THE YEARなど、全部で8冠も獲得しているとは知りませんでしたが、それも納得の面白さでした。


文庫版は上下巻にわかれていますが、上巻は物語としては序の口ですね。
中学1年生のこころが学校に行けなくなり、引きこもりのような状態になっていたある日、部屋の鏡が突然光を放ち、その鏡を通って不思議な城へと招かれます。
そこで他の6人の中学生と出会い、彼らといつしか仲良くなっていく過程が丁寧に描かれていきます。
こころを含む7人の中学生の共通点は、「学校に行っていないこと」。
こころは同級生との関係がうまくいかなかったことで学校に行けなくなってしまった子です。
「いじめ」とまではいかなくても、こころが同級生たちから受けた仕打ちは十分に一方的で理不尽で残酷でした。
他の6人についても、学校に行っていない理由は少しずつ明らかになっていくのですが、これが見事に全員事情がバラバラ。
一言で「登校拒否」と言っても原因はいろいろで、大人の読者視点としては、だからこそ学校に行けない/行かない子たちへの対応は一筋縄ではいかないし、ひとりひとりとじっくり向き合う必要があるのだろうなと考えさせられます。
それでも中学生にとっての世界は狭く、ほとんど家庭と学校しかないというのは全員に共通していて、学校に居場所を見失ったこころたちは、鏡の中の城に集まることで、新たな自分の居場所を見つけていくのです。


登校拒否の子どもたちが異世界に行くことで居場所を見つけるファンタジーなんて、なんだかありがちな話だなという印象は、下巻に入ってからの怒涛の急展開によって一気に覆されます。
こころたちが城に行ける最後の日を目前にしてとんでもない事件が起こり、こころは他の6人を助けるために勇気を振り絞って「冒険」をすることになるのですが、彼女がたどり着いた「真実」には驚かされました。
城にまつわるいくつもの謎のうちひとつについては、私はかなり早い段階で見当がついていたのですが、それでも次々と明らかになる真相に圧倒されました。
そもそも、鏡をくぐり抜けたらそこには別世界があるだとか、そこにある城には「オオカミさま」という狼のお面をつけた女の子がいるだとか、城の中に隠された鍵を見つければ何でも願いがひとつ叶えられるだとか、なんだかいつかどこかで読んだり見たりしたような設定が多いことに関しても、最後まで読めばちゃんと理由があったのだということがわかります。
冒頭からしっかり伏線が張られ、すべてが明らかになる結末につながっていたのだということに驚くとともに、そういえば辻村深月さんはメフィスト賞出身のミステリ作家でもあったのだということを思い出したのでした。
しかも、城と「オオカミさま」の正体には、大いに泣かされてしまいました。
これはズルいと言いたくなる結末で、その後のエピローグがこれまたズルいのですが、気持ちよく泣けるラストであったことも事実です。
なぜならそれは奇跡でも魔法でもなく、こころたちが自分たちでつかみとった未来だから。
鏡の中の城はこころたちにとって「逃げ場所」だったかもしれないけれど、つらい現実から逃げた先にこそ開ける道もあるのだと思います。


ファンタジーとミステリが融合したような物語で、最後はあたたかく気持ちのよい涙で読み終えることができました。
子どもが読んでも楽しいでしょうし、大人にとっても十分読み応えがあります。
現実がつらいすべての人にとっての、祈りと救いの物語でした。
☆5つ。