tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『オルタネート』加藤シゲアキ


高校生限定のマッチングアプリが必須となった現代。東京のとある高校を舞台に、3人の若者の運命が、鮮やかに加速していく――。恋とは、友情とは、家族とは、人と“繋がる”とは何か。悩み、傷つきながら、〈私たち〉が「世界との距離をつかむまで」を端正かつエモーショナルに描く。渾身の青春小説。

人気アイドルでありながら、今や実力派作家としても認められている加藤シゲアキさんの作品を初めて読みました。
実は私はアイドルにあまり興味がなく、加藤さんのこともNEWSのメンバーということくらいしか知らなくて申し訳ないくらいなのですが、著作を読むにあたっては先入観がまったくないというのはよかったかもしれません。
単なる「初めて読む作家さん」という感覚だけで読んでいました。


タイトルの「オルタネート」は、高校生のみが利用できるマッチングアプリの名称です。
このアプリを利用する、あるいはさまざまな理由で利用しない高校生たちそれぞれの青春が鮮やかに描かれています。
私自身の高校時代はマッチングアプリどころかまだスマートフォンもありませんでしたから、高校生のアプリとの向き合い方が非常に新鮮でした。
高校に入学してすぐにアプリの利用を始めて見知らぬ高校生との出会いを楽しむ子たちもいれば、アプリに苦手意識を抱いて距離を取る子、利用したいと思いながらも中退したために利用資格を失ってしまう子など、人それぞれです。
私がもしオルタネートがある世界の高校生だったら、とりあえず登録だけはするけどあまり積極的には利用しないタイプかな……などと自分の高校時代を思い出しながら想像してみるのも楽しいものでした。
マッチングアプリといっても恋愛相手を求めるだけでなく友人探しにも使えて、自校だけなく他校の生徒とも出会えるという、なかなか便利そうなアプリです。
実際の高校生もきっといろいろなSNSを使って高校生同士でつながったりしているのでしょうね。
そう考えるとやはり私の時代とは様変わりしているのかなと、ちょっとうらやましいような、でも一方でちょっとさみしいような、そんな気持ちを味わいました。


とはいっても、人との出会い方やつながり方が変わっただけで、高校生の過ごし方や悩みや思いは時代が違ってもそう大きくは変わらないのかもしれません。
調理部の部長を務め、「ワンポーション」という高校生の料理対決を扱うネット番組に出場し、料理に打ち込む蓉 (いるる)。
オルタネートを積極的に利用し、運命の人と出会おうとする凪津 (なづ)。
高校を中退し、以前ともに音楽をやっていた友人に会いに大阪から上京するドラマーの尚志 (なおし)。
主にこの3人それぞれの青春が描かれるのですが、部活に打ち込むのも、恋愛を楽しもうとするのも、音楽と友情を追い求めるのも、どれも昔からある青春の形であって、それ自体は特に新鮮味のあるものではありません。
普遍的な青春物語である本作がそれでも評価されたのは、やはりオルタネートやワンポーションといった新しい技術が可能にした高校生たちの人間模様を描いたことにあるのではないでしょうか。
特にワンポーションに出場した蓉の戦いの行方には、まさにそのネット番組を見ているかのようにドキドキしました。
ペアを組む後輩とのぎこちない関係、料理人である父とのわだかまり、対戦相手であるライバル校の男子との恋愛関係など、ワンポーションを中心に展開される人間関係の描写も非常に読み応えがあり、料理対決の勝負とともにその行方が気になります。
凪津のオルタネートで出会う相手との恋愛にしても、尚志が出会う音楽仲間たちとの関係にしても、高校生たちが人間関係の中でさまざまなことを学び、考えて成長していくのは今も昔も同じ。
ただアプリやネット番組といったものが登場したことで少し変化した部分も、変わらない部分もあるという、ある意味当たり前のことを丁寧に描いたのがこの作品の良さです。


バラバラだったように見えたメイン3人の物語が少しずつ重なってきて、最後にひとつにつながるのも気持ちよかったです。
高校生の狭い世界は、そうやって少しずつ広がっていくものですよね。
ノスタルジーと新鮮さと、どちらもバランスよく味わえる青春小説でした。
☆4つ。