tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『戸村飯店青春100連発』瀬尾まいこ

戸村飯店 青春100連発 (文春文庫)

戸村飯店 青春100連発 (文春文庫)


大阪の超庶民的中華料理店、戸村飯店の二人の息子。要領も見た目もいい兄、ヘイスケと、ボケがうまく単純な性格の弟、コウスケ。家族や兄弟でも、折り合いが悪かったり波長が違ったり。ヘイスケは高校卒業後、東京に行く。大阪と東京で兄弟が自分をみつめ直す、温かな笑いに満ちた傑作青春小説。坪田譲治文学賞受賞作。

もともと瀬尾まいこさんの作品は好きなんですが、いや〜、これは面白かった。
坪田譲治文学賞受賞も納得の、気持ちいい青春小説です。


大阪の下町で、大阪のおっちゃんおばちゃんを相手に小さな中華料理店を営む戸村家。
ヘイスケとコウスケは、戸村家の年子の兄弟。
性格も才能も違う2人は、お互いに相手に対する引け目やわだかまりを感じていた。
ところが兄のヘイスケが、高校卒業後、小説家になると言って家を出て東京の専門学校に行くことになり…。


まず、大阪の下町が舞台というのがいいですね。
瀬尾まいこさんは大阪出身なので、もしかするとご自身が生まれ育った環境そのままを描かれたのかもしれません。
阪神タイガースが好きで、吉本新喜劇が好きで、会話は常にボケとツッコミで成り立っていて、おせっかいでおしゃべりで…。
そんなコテコテの大阪人の世界が描かれていますが、大阪人が描く大阪は嘘っぽくない。
私も大阪人なので、うんうん、大阪ってこんな街やんなぁ、と思いながら読みました。
大阪弁で交わされる会話もとても軽妙で、面白いです。
これも普通の大阪人が普段しゃべっている口調・内容そのまま。
くだらないギャグが織り込まれていたり、鋭いツッコミが入ったりするやりとりに、ところどころ笑わされました。


物語はヘイスケとコウスケの兄弟が交互に語り手となって進んで行きますが、それぞれの視点で描かれることにより、それぞれの相手に対する複雑な思いがとても分かりやすく浮かび上がってきます。
同じ親から生まれたたった1歳違いの兄弟でも、性格も才能も考え方も全然違う。
それでも根っこの部分でどこか共通している部分があって、その共通した部分があるからこそ通じ合えることもある。
素直に兄弟っていいもんだなぁと思いました。
兄のヘイスケが進学のために上京することで初めて離れ離れになって、お互いの関係のこと、家のこと、将来のことを、初めてじっくりと考えて…。
別々の道を歩み始めた2人の、学校生活や恋愛や友情といった青春を通しての自分探しの旅の答えは、一見別のものに見えても、実は根っこのところが同じなのだろうなと思います。


ラストはじんわりと泣けました。
兄弟っていいよね、家族っていいよね、故郷っていいよね、青春っていいよね。
笑って泣いて、とても楽しく読める青春小説です。
☆5つ。