tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『3月のライオン (15)』羽海野チカ

3月のライオン 15 (ヤングアニマルコミックス)

3月のライオン 15 (ヤングアニマルコミックス)


ひなたの待つ駒橋高校の文化祭にぎりぎりで間に合った零。
後夜祭のファイヤーパーティーの中で、ついに零からひなたへある思いが伝えられる。
出会ってからの日々や思い出が心に浮かんでは消える時間。
そこでふたりの間を行き交う思いは──。

一方、棋戦シーズンも真っ盛りを迎える。
「天才」に異様な嫉妬を燃やす「元天才」の中堅棋士、重厚な棋風に経験という厚みを加えたベテラン棋士、対局するは一筋縄ではいかない相手ばかり。
盤を挟んだ相手との静かなる対話を通して、己自身とも向き合う零。
振り返るこれまでの道のり、そして感じる成長とは…。

もう、どこを読んでも泣ける巻でした。
まず、書店でもらったおまけペーパーをなくさないように挟んでおこうと裏表紙を開いたところにあった「著者 (のネコ) 近影」でいきなり泣かされ、本編で泣き、余白ページの連続絵によるミニストーリーに泣き、あとがきでも泣き。
ほぼずっと泣いてたんじゃないかというぐらいですし、今思い出すだけでも鼻の奥がツンとしてきます。
小説でもマンガでも、よく泣いている私ですが、こんなに泣いたのは久しぶりでした。


まず、14巻からの続きの文化祭の話の完結。
これがもう素晴らしかったなあ。
零くんとひなちゃんがついに!ってここまで読み続けてきた読者としては感無量ですよ。
零くんが誠実にまっすぐに川本家と向き合い寄り添ってきた日々が報われた感じですね。
個人的に「長い時間をかけて頑張ってきたことが報われる」という展開の物語が大好物なので、うれしくて泣いてしまいました。
また、このエピソードを彩る金木犀の描写が非常に印象的でした。
金木犀といえば、『ハチミツとクローバー』ではとても切ない場面で使われていたのですが、『3月のライオン』ではこう来たかと。
同じ花をまったく異なる文脈で描いていますが、どちらの場面もキャラクターの心情がまっすぐに伝わってきて、胸に沁みます。


その後は待望の将棋メインのストーリーへ。
やはり先崎九段が復活されたから対局の話も描けるようになったのかな。
期待を裏切らず、これまでの「ライオン」がそうであったように、熱のこもった物語になっています。
新キャラの棋士「あづにゃん」がまた濃くていいキャラクターで、いかにもこのマンガらしい登場人物だなと思いました。
そして、これまでちょくちょく他の棋士たちとともに描かれていた田中七段が、ついに零くんの対戦相手として最前面に出てきました。
それによってはじめて田中七段のプライベートを知ることになり、ああ、こんな背景を持っている人だったのかと感じ入るものがありました。
「あづにゃん」にしても、田中七段にしても、そしてもちろん零くんにしても、棋士たちはみんなそれぞれ何かを背負って戦っているんですね。
そして、それは棋士に限った話ではなく、すべての人が同じことなんだなと思いました。
みんなそれぞれの荷物を背負って生きている。
荷物の大きさや重さは人によって違い、文字通りの重荷になることもあれば、大切な宝物になることもある。
途中でおろす荷物もあれば、最後まで大事に運んでいかなければならない荷物もある。
どんな荷物を背負っていくかは人それぞれだけれど、その道行きは決してひとりじゃないんだ、という力強いメッセージに、大いに勇気をもらいました。
零くんに関しては、1巻にあった「将棋の神様との契約」の話がようやくここでつながってきて、伏線回収のフェーズに入ったのかなと、ワクワクするようなちょっとさみしいような気持ちになりました。
今後零くんが「自分が生きていていい場所」を得るためではなく、全く別の理由や望みを胸に対局に挑む日も来るのでしょうか。


あとがきマンガでは羽海野さんの近況を知り少し驚きました。
こんな状況でこの密度の濃い熱い物語を描かれていたのか……と。
どうか心身を大切に、と願うばかりです。
そして、私も筋トレをやろうと思いました。
作者はもちろん、読者だって健康でなければ続きは読めないのですから。
16巻でまた少し成長した零くんたちに会えることを楽しみにしています。




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