tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『3月のライオン (11)』羽海野チカ


川本家に自分勝手な提案をする彼女たちの父親・誠二郎に、一歩も引かずに渡り合った零。あかり、ひなた、美咲、相米二、川本家の皆が彼の存在の大きさを感じていた…。零が自分の幼少期から現在に至るまでを振り返ったスピンオフ「ファイター」も併録。

10巻は川本家に訪れた新たな危機に対して、零くんが暴走?したところで終わっており、ここからどう話を進めて問題を解決させるのかと気が気ではありませんでしたが、零くんは結局この巻でもやっぱり暴走気味。
とはいえ、それは決してひとりよがりな暴走ではなく、愛ある暴走なのですよね。
また、先の先の先を読むという、棋士ならではの思考回路も影響しているように思います。
だから悲惨な結末にはなりはしないだろうと、どこか安心しながら、途中で差し込まれるギャグエピソードにけらけら笑いながら、楽しく読めました。


ギャグエピソードの中では、零くんと雷堂の対局が一番強烈な印象でした。
雷堂ってこんな人だったんですね……もっと重々しい感じかと思いきや、零くんにも負けないくらいの強烈な暴走キャラっぷりを見せてくれて、その大人げのなさや迷棋士っぷりに大いに笑わせてもらいました。
3月のライオン』に登場する棋士たちはみな個性が強くて濃いキャラばかりですが、雷堂はその中でも一番濃いかも……と思うくらいでした。
逆に彼の真面目な将棋も見てみたい気もします。
零くんの精神力や忍耐力はこうやって培われているのね、と納得できる感じもしました。


そうやって大いに笑える場面があったかと思うと、零くんと川本家との和やかな一場面にほっこりしたり、零くんの片想い(?)っぷりにもだもだしたり、あかりさんとひなちゃんの強さに涙したり……とこの1巻のみでなんとも振り幅の広いこと。
それでもストーリーが破たんすることなくきちんとまとまっているのがさすがだなぁと思います。
この巻でうれしく感じたのは、零くんがほぼ完全に川本家と「家族」になっていることを感じられたこと。
おじいちゃんや美咲おばさんにも完全に家族として認められた感じで、なんだかとてもほっとしました。
暴走気味の零くんではありましたが、暴走するほど本気で真剣に川本家の問題に関わっていったからこそ、血のつながりなどなくても、家族になれたのだろうなぁと。


零くんとは逆に、血のつながりはあるのに本当の意味での家族にはなれなかった3姉妹のお父さん。
どこまでいっても最低最悪のお父さんなのですが、こういう人、実際いるんでしょうね……。
そして、どんなに最低の男でも、やっぱり3姉妹にとっては父親で、彼との決別は姉妹にとっては問題の解決であると同時に喪失でもあります。
ひとつの問題が片付いたとはいえ、まだまだ危うさの残る3姉妹を、零くんが上手くサポートしてくれるといいなと思います。
特にいろいろ背負いすぎなあかりさんの幸せは、おそらく全読者の願うところ。
ただ、零くん、またあんまり暴走しないようにね……と少々不安に震えながら次巻を待ちたいと思います。
私としてはこの巻での島田八段があまりに不憫でならないので、彼の幸せも願いたいところですが。
いやもう、この際全員まとめて幸せになる結末とかないの!?と思ってしまいます。
それくらい、どの登場人物も愛おしく感じられる物語を読めていることが、とても幸せです。


☆おまけのつぶやき☆
*この巻の最終話で零くんが突然回答をひらめいた「117手詰め」は、スピンオフ「ファイター」で小学生の零くんが取り組んでいる問題と同じですよね。こんなところにつながってくるんだ~!とうれしくなりました。
*一部書店で限定配布のペーパーのマンガで、あかりさんがさらっと家族の人数を「6人」と言っていますが、これは零くんを含んでいると思っていいんですよね……?


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