tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『マイ・ブルー・ヘブン 東京バンドワゴン』小路幸也

マイ・ブルー・ヘブン (4) 東京バンドワゴン (集英社文庫)

マイ・ブルー・ヘブン (4) 東京バンドワゴン (集英社文庫)


終戦直後の東京。華族の娘、咲智子は父親からある文書が入った“箱”を託される。それを狙う敵から彼女の窮地を救ったのは、堀田勘一という青年だった。古本屋「東京バンドワゴン」を営む堀田家で、咲智子はひと癖もふた癖もある仲間たちと出会い、敵に連れ去られた両親の行方と“箱”の謎を探るため奮闘する。いつも皆を温かく見守るおばあちゃん・サチの娘時代を描く人気シリーズ感動の番外編

大好きなシリーズ、「東京バンドワゴン」。
連作短編集が3作続いた後、今回はシリーズ初の長編で番外編という扱いです。
東京バンドワゴンシリーズの違った側面を見られて、ますますこのシリーズが好きになりました。


東京バンドワゴンシリーズ本編の語り手として登場するサチおばあちゃん。
すでに故人となっており、幽霊(!)として登場するのですが、家族への温かい眼差しと、優しく上品な語り口がステキなおばあちゃんです。
そのサチおばあちゃんの娘時代、東京の下町の古本屋「東京バンドワゴン」の一員に加わった経緯を描くのがこの作品です。
華族の令嬢だったサチこと咲智子は、ある日突然両親から謎の「箱」を託され、それを手に入れようと企む者たちから逃げることになります。
ピンチに陥った咲智子を救ったのが、東京バンドワゴンの主人・堀田草平の息子、勘一でした。
咲智子は勘一と偽装結婚し、古本屋の若妻として働くことになります。


こういうシリーズものの番外編って大好きです。
ある物語を別の側面から見て、本編では触れる機会のないストーリーを読むことができるのは幸せだと思います。
サチさんは本編でとても素晴らしい語り手役を務めていて、好きなキャラクターのひとりなので、こうして生前のサチさんと出会えてとてもうれしかったです。
あの上品は語り口は旧華族のお嬢様だったからなのね、と納得したり、古本屋の大家族をまとめるおかみさん的側面は、こうした苦労をくぐり抜けてきたからだったのね、と感心したり。
やっぱり私はサチさんが好きだなぁと思いました。
そして若き日の勘一がやたらとかっこいいのですが、それはやっぱりサチさんの、恋する乙女目線で描かれているからなんでしょうね。
そう思うとすごく微笑ましくて、こっちが照れてしまいそうです。
本編で大きな存在感を放つ勘一とサチの息子の我南人(がなと)が登場しないのが少し寂しい(勘一とサチの結婚前の話なのだから当然なのですが)と思っていたら、ちゃんと我南人と同じようなしゃべり方のキャラクターが出てくるあたり、抜かりがないなという感じで思わず笑ってしまいました。


ストーリーとしてはちょっと大風呂敷を広げすぎちゃったかな、という感じがしないでもなく、登場人物が多くてごちゃごちゃした感じも否めませんが、ミステリというよりは冒険小説的な筋書きは面白かったです。
勘一やサチを助けるマリア、十郎、ジョー、かずみちゃんなどのキャラクターも個性豊かで楽しいです。
そしてなにより戦後間もない日本という時代背景が、戦後最大の国難とも言われる今の日本の状況とも重なって、よかったのではないかと思います。
つらいことも悲しいこともたくさんあるけれど、きっと日本を復興させてよい国にしていくんだ、という登場人物たちみんなの強い決意が伝わってきて、勇気付けられる思いがしました。
音楽でみんながひとつになり、希望に満ちた明るい未来を感じさせてくれる場面もよいですね。
本編がそうであるように、この番外編もとても気持ちのいい、心温まる物語でした。
次作がまた楽しみになりました。
☆4つ。