tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード 東京バンドワゴン』小路幸也


明治時代創業の老舗古本屋・東京バンドワゴンは本日も大騒ぎ!先々代の時代に錚々たる文士が寄稿して編まれ、強盗殺人までも引き起こした“呪いの目録”。ずっと封印されていたその目録を狙う不審な男がうろつきはじめた―。さらに、なんと英国の秘密情報部員が堀田家へ乗り込んできた!二代目が留学先から持ち帰ったある本を巡り、勘一、我南人たちはロンドンへ―。人情たっぷりの第11弾!

毎年春の楽しみ、「東京バンドワゴン」シリーズ。
もう11作目にもなったのですね。
東京下町の古書店東京バンドワゴン」を営む大家族、堀田家の面々との付き合いも長くなりました。
登場人物も新作の刊行に合わせて毎年年齢を重ねていて、最年長の勘一に至ってはすでに85歳となりましたが、威勢のよさはシリーズ開始当初から全く変わっておらず、まだまだシリーズは続いていくだろうと思わせてくれるのがうれしいです。


個人的に本作はここ何年かのシリーズ作の中では一番よかったです。
何がよかったって、古いものと新しいもの、両方がうまく物語に取り入れられていたことですね。
四季に分かれた4つの話の中で、1章と2章にあたる春と夏の話は、老舗古書店ならではの、伝統と歴史を感じさせる物語になっています。
東京バンドワゴン」の蔵に封印されている「呪いの目録」は、これをめぐって強盗殺人まで起こったといういわくつきの目録で、日本の近代文学を代表する錚々たる作家たちが寄稿しているお宝なのですが、今回は再びこの目録をめぐる騒ぎが起こります。
これが春の章。
そして夏の章では、勘一の父がイギリス留学から帰る時に持ち帰った古い洋書が騒動を引き起こすことになり、なんと勘一たちが急遽ロンドンへ飛ぶという驚きの展開になります。
どちらも「東京バンドワゴン」が明治時代から続く老舗の店だからこそ起こる事件で、先代・先々代に関わる堀田家の歴史が紐解かれ、ワクワクしました。
古いものには価値があり、まさにその古さという価値を扱う商売をしている「東京バンドワゴン」らしい物語でした。
ロンドンへ行っても江戸っ子まる出しで啖呵を切る勘一じいちゃん、かっこよかったです。


そして秋の章では、なんと堀田家最年少・もうすぐ5歳の鈴花ちゃんとかんなちゃんが「事件」を持ち込みます。
これは今までにない展開で、ふたりの成長ぶりが感じられますね。
作中で紺と研人も言っている通り、「末恐ろしい子たちだな」というのが率直な感想ですが、しっかり堀田家の血筋を引いているところが頼もしいです。
きっと彼女たちはこれからも様々な形で堀田家に持ち込まれる事件や騒動に関わっていくことになるのでしょう。
そんな未来が見える展開に心が躍り、また語り手で故人 (つまり幽霊?) のサチおばあちゃんが紺や研人と新たなコミュニケーション手段を得るのも面白かったです。
かんなちゃんはどうやらサチおばあちゃんのことが見えているようですから、今後のシリーズでは紺や研人を交えて4人でコミュニケーションを取る機会があったりするかも、と想像すると楽しくなってきました。
最後の冬の章は研人を中心に描かれます。
すでに音楽活動でお金を稼いでいて、ちょっとした有名人となりつつある研人。
でも有名になるということはリスクでもあって、インターネット上に研人に対する中傷の書き込みが増えているという、非常に現代的なテーマのお話でした。
研人のみならず、幼なじみでガールフレンドの芽莉依 (めりい) ちゃんまで標的になっていて心配になりましたが、そこは堀田家、人数が多いだけでなく人脈も幅広いですから、それを活かしてベストな解決方法で大団円となりました。
また、医大を目指す花陽ちゃんに関して、なかなか感動的な展開もあり、いつになく目頭が熱くなってしまいました。


堀田家の過去と未来を描いた11作目、非常に満足しました。
これは次作以降も楽しみというものです。
いよいよ医大受験を迎える花陽ちゃんの入試結果がまずは楽しみ。
……と思いきや、次巻は番外編となるので花陽ちゃんの入試結果はさらにその次、つまり2年後までお預けですね。
待ち遠しいです。
☆4つ。


●関連過去記事●
tonton.hatenablog.jp