tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『花の鎖』湊かなえ

花の鎖 (文春文庫)

花の鎖 (文春文庫)


両親を亡くし仕事も失った矢先に祖母がガンで入院した梨花職場結婚したが子供ができず悩む美雪。水彩画の講師をしつつ和菓子屋でバイトする紗月。花の記憶が3人の女性を繋いだ時、見えてくる衝撃の事実。そして彼女たちの人生に影を落とす謎の男「K」の正体とは。驚きのラストが胸を打つ、感動の傑作ミステリ。

湊かなえさんの作品としては、久々にミステリ度高めでしょうか。
序盤から謎がたくさんあり、先が気になってどんどん読み進めてしまうところが湊さんらしい作品だなぁと思いました。


この作品は、3人の女性の物語が交互に語られていきます。
両親を事故で亡くし、勤務先の英会話スクールの倒産により失職し、ただひとりの家族となった祖母がガンで入院した梨花
彼女の家には、毎年決まった日に必ず豪華な花束が届いていました。
その花束の贈り主は「K」。
花束はなぜ毎年贈られてくるのか、「K」とは何者なのか?
一方、職場結婚した夫との仲はよいものの、子宝に恵まれない美雪。
夫の和弥がある画家の美術館設計のコンペに参加することになり、なんとか夫の力になりたいと彼女なりの努力をします。
さて、コンペの行方は?
そして、イラストレーターや水彩画教室の講師をしている紗月。
ある日彼女のもとに、学生時代の友人・希美子がやってきて、ある「お願い」をしようとします。
そのお願いの内容を察した紗月は、希美子を拒絶して逃げ出してしまいます。
希美子の「お願い」とは、そして紗月がそのお願いを受けられない理由とは?


最初はバラバラに思えた3人の女性の物語が少しずつ共通点を見せ始め、最後に一つの物語に収れんする構成は非常にうまいなと思いました。
アカシア商店街、花、きんつば、とある画家など、細かいところまで設定にこだわり、それによってきちんと読者にヒントを提示するフェアなところも感じられます。
ようやく物語の全貌が見えた時には、なるほどなぁと感心しました。
ただちょっと残念なのは、3人の女性の物語に同じモチーフがいくつも登場するので、どのエピソードがどの女性の話だったか混乱しがちで、それが読みにくさになってしまっていました。
頭の中だけでは整理しづらいものを感じたので、分かりやすく読もうと思うと人物相関図などを自分で書きながら読む必要があったかもしれません。
でも、最後まで読めばちゃんと全体像ははっきり見えますし、構図が分かっている分再読するのはきっと楽しいだろうなと思います。
とにかく最後まで一度読んで、その後最初から読み返して伏線の妙を楽しむ――そういう読み方がふさわしいのかもしれません。


ネタバレになってしまうのでストーリーにはあまり触れられませんが、やはり湊さんは女性の心理描写がうまいなと思いました。
その分どうも男性の登場人物の存在感が薄い感じはしますが、女性たちの人間模様や心情だけで十分な読み応えです。
また、湊さんの作品と言えば、性格の悪い嫌な人物やドロドロとした人間関係など、ブラックな味わいが印象的ですが、今回はずいぶん毒が薄まっています。
多少嫌な感じの人物も登場しますが、読んでいてそれほど嫌な気分になることもなく、読後感も悪くありません。
そういう意味では『告白』や『少女』あたりが好きな人は物足りなく感じるかもしれませんし、逆にこれらの毒の強い作品が苦手だという人には読みやすい作品だと言えます。


毒気弱め、ミステリ度高めで、新たな湊さんの世界を見せてもらったと感じました。
デビュー作『告白』が良くも悪くも強烈なインパクトを持っていて、それでちょっと損をしてしまっている感じがしなくもない作者ですが、これからもどんどん作風を広げていってほしいと思います。
☆4つ。