tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ナラタージュ』島本理生

ナラタージュ (角川文庫)

ナラタージュ (角川文庫)


ずっと想い続けていたひとと交わした熱い瞳、もう、この恋から逃れることはできない−−早熟の天才、少女時代の最後を傾けつくした、絶唱というべき恋愛文学。

島本理生さんの作品はとても静かで、淡々と物語が流れていきます。
でもその水が静かに流れていくような整った文体で描かれる恋心は時に激しく、熱くて、読んでいるとたびたびハッとさせられます。


『ナラタージュ』は大学生の主人公・泉が、高校時代に自分を救ってくれた先生を忘れられなくて…というある意味とてもありふれた題材の正統派恋愛小説です。
文章も雑然としたところが全くなくてとてもきれいだし、ストーリー展開にも気取ったところがありません。
恋愛小説というとたまにやたらドラマチックすぎる台詞回しやご都合主義的な展開があったり、またはやけにお洒落すぎたりドロドロしすぎたりしていて白けることもありますが、島本さんが描く恋愛はごく普通。
実際にこんな恋愛ありそうだなぁと思わせられる、とても現実的なストーリーです。
登場人物も特に美男美女というわけでもなく、根っからの善人というわけでも悪人というわけでもなく、笑ったり泣いたり愛し合ったりけんかしたり、本当に平凡な、そこら中にいそうな普通の人たちばかりです。
妄想の産物ではない、そこら中にありふれている等身大の恋愛をそのまま文章に乗せられる恋愛小説家=島本理生さんという印象が強いです。
こんな嫌味のない作品を若くしてさらっと書けてしまうのだから、島本さんはすごいなと思います。


特にこの『ナラタージュ』に描かれている恋愛は共感しやすいのではないかと思いました。
少女時代の幼い想いだったかもしれないけれど、確実に一人のひとを深く愛したという証に、どれだけ時が流れても、他の人を愛し愛されるようになっても、いつまでも胸の底で疼き続けるような恋。
うん、うらやましいな。
そんな体験してみたかったな(過去形なのが悲しい)。
主人公の泉と同じような体験は全くしていない私でも、彼女の気持ちには共感できるところが多々ありました。
付き合ってる男性にこんなことされたら…確かに許せないというか、嫌悪感はあるだろうなぁとか。
島本さんはおそらく恋愛においても学生生活においても優等生的な道を歩いてきた人なんじゃないかなと思います。
まっすぐで、ひねくれたところが少ない。
そこが私にはとても好感が持てます。
でも…ちょっときれいにまとまりすぎている気もしますね。
淡々と展開した前半に比べ、物語後半は話の流れも速くなり、ある大事件も起こって大きく物語が動きますが、その割には引っかかりもなく前半と同じようにさらっと読めてしまうのが少し物足りなくも感じました。
これは島本さんの文体が整いすぎているからだと言えるのかもしれません。
ただ、くせはないので万人に読みやすい恋愛小説だと思います。
☆4つ。