tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『Story Seller 3』新潮社ストーリーセラー編集部

Story Seller〈3〉 (新潮文庫)

Story Seller〈3〉 (新潮文庫)


大好評アンソロジー第3弾のお届けです。前々作、前作に登場した超豪華執筆陣に加え、新たに湊かなえさん、さだまさしさんが登場。オール読みきり、読み応え抜群の作品を収録します。エッセイあり、ミステリあり、笑える話や、ホロリとさせる恋愛小説あり。あらゆる世代の方々にご満足いただける読書体験をお約束します。本とともに過ごす、至福の時間をお楽しみください。

毎度おなじみ、豪華な執筆陣を揃えた新潮社の人気アンソロジーの文庫化3作目です。
確かこれが最終巻になるんでしたか。
今回はさだまさしさんと湊かなえさんが加わり、さらにパワーアップしています。
それでは各収録作品の感想を。


「男派と女派 ポーカー・フェース」 沢木耕太郎
唯一のエッセイ作品。
とても読みやすい文章で、サクサク読めます。
中国で盗難に遭った話、神田の寿司屋のかっこいい親方の話、そしてタイトルにもなっている、「いままでの人生で、大事なことというのは男と女のどちらに教えてもらいましたか」という話。
どのエピソードも印象的で、海外でも日本国内でもさまざまな経験をしてきた人だからこそ書ける文章という感じがしました。
ちなみに「男と女のどちらに…」という問い、私の場合は「女」かなぁ…。


「ゴールよりももっと遠く」 近藤史恵
話題作『サクリファイス』のスピンオフ。
でも『サクリファイス』を読んでいなくてもそれなりに楽しめると思います。
今回は自転車ロードレースにおける八百長の話。
どこの世界にもスポーツマンシップを踏みにじるような卑劣な企みはあるものなのかもしれないなと思いました。
一人称でありながら無駄のない、感情を抑えて淡々とした語り口の文章が効いています。


「楽園」 湊かなえ
今回初登場の湊かなえさん。
ベストセラー『告白』はいろいろと「きつい」作品でしたが、この作品は「癒し」の物語だと思います。
とは言え嫌〜な感じの登場人物も出てきますが…。
阪神大震災で双子の妹を亡くした女子大学生が、「楽園」を求めてトンガへ向かうという話です。
トンガの心優しい人々との交流と、恋人である裕太の包容力に、心が暖かくなりました。
ストーリーもよかったし、行ったこともないトンガの情景が頭の中に浮かぶような描写力も素晴らしいと思いました。


「作家的一週間」 有川浩
タイトルそのまんまですが、とある作家の1週間を描いたコメディー作品。
とにかく冒頭の作家と新聞社とのメールのやり取りが笑えます。
もしかして有川さん自身が作家として経験された実話も少なからず反映されている話なのかな、とも思いました。
作中作のショートショートもなかなか面白いです。
短編でありながら充実した内容で大満足。
有川さん、ベタ甘ラブコメ以外もいけますね〜。


「満願」 米澤穂信
米澤さんは得意のミステリ。
前回は最後の最後で物語を鮮やかにひっくり返す「フィニッシング・ストローク」が印象的な作品でしたが、今回はある殺人事件の犯人がなぜ犯行に至ったのか?という「ホワイダニット」にこだわった作品です。
ミステリとして大きな驚きがあるわけではないのですが、さすがにきれいにまとまっています。
ノスタルジーを感じさせる雰囲気や読後の切ない余韻も米澤さんらしく、楽しめました。
ちょっと硬めの一人称という文体もよかったです。


「555のコッペン」 佐藤友哉
佐藤さんは『Story Seller』1作目から続けてのシリーズものですね。
もしかしたらこの作品は1作目からシリーズとしてちゃんと読んでいないと楽しめない部分があるかもしれません。
私も実は細かい登場人物のエピソードなど忘れていて、ちょっと意味の分からない部分があったりしました。
同音異義語を重ねるなどの言葉遊びは佐藤さんらしくて楽しいです。
それにしても謎が解けないまま終わってしまった部分があるような気がするんだけど…?
単行本にまとめる時に補足されるのでしょうか。


「片恋」 さだまさし
さだまさしさんの小説を読むのは初めて。
意外とくだけた文体で書かれるのですね。
マスコミの末端で働く女性の元に、全く知らない男性が交通事故で亡くなったという知らせが届くが、一体この男性は何者で、女性とはどういう関係があったのか、という少しミステリ要素もある作品です。
さださんだから感動泣かせ系の話なのかと思いきや…、う〜ん、確かに少し感動的ではあるけれど、やっぱりよくよく考えてみるとちょっと気持ち悪いという感覚が抜けないぞ、というなんとも言葉にしづらい微妙な読後感でした。


とても充実した内容のアンソロジーなので、これで最後というのは寂しいですが、また上質なアンソロジーの登場を期待しています。
☆4つ。