tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『螺旋階段のアリス』加納朋子

螺旋階段のアリス 文春文庫

螺旋階段のアリス 文春文庫


大企業のサラリーマンから憧れの私立探偵へ転身を果たした筈だったが―事務所で暇を持て余していた仁木順平の前に現れた美少女・安梨沙。
…亡夫が自宅に隠した貸金庫の鍵を捜す主婦、自分が浮気をしていないという調査を頼む妻。
人々の心模様を「不思議の国のアリス」のキャラクターに託して描く七つの物語。

先日文庫化されたばかりの加納朋子さんの『螺旋階段のアリス』を読了。


いやー、よかったです。
『模倣犯』、『翼 cry for the moon』と、二連続で重くて痛い話を読んだ後だったので、よけいに加納ワールドのあたたかさが心にしみました。


大会社を早期退職して念願の私立探偵事務所を開いた仁木。
そこに突然現れた美少女・安梨沙(ありさ)が探偵助手となり、二人は少しずつ舞い込んでくる依頼を解決していく。


タイトルからも連想できるように、この作品はキャロル・ルイスの『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』のモチーフをふんだんに取り入れた7編の連作短編集です。
私はそれほどアリスについて知識があるわけではないのですが、物語の雰囲気は十分に楽しめました。
そしてなにより、加納朋子さんお得意の「日常の謎」ミステリは健在。
今回は特に、「夫婦」の関係の中にある謎解きに焦点が置かれています(『地下室のアリス』だけは例外)。
ここで描かれている夫婦関係のありかたはまさに十人十色。
ですが、どの夫婦も、二人の間には確実に「愛」と「思いやり」が存在しているのが加納ワールドらしいですね。
特に『最上階のアリス』の結末には感嘆しました。
加納作品には珍しく「殺意」を扱っているのですが、その「殺意」の動機は思いがけないものでした。
ミステリで殺人を扱うのは普通ですが、この動機は加納朋子さんにしか書けないだろうと思います。


ですが私にとって理想の夫婦は『アリスのいない部屋』での仁木夫妻です。
夫婦として何年も連れ添っていれば、当然相手も自分も変わっていきます。
それぞれの変化を受け入れて、お互いを尊重し合える夫婦。
…いいなあ。
私も結婚したくなってきました(笑)