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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『オール・ユー・ニード・イズ・ラブ 東京バンドワゴン』小路幸也

BOOK REVIEW


青の映画がいよいよ公開されることに。東京下町の古書店東京バンドワゴン”には、本日も訳ありのお客がやってくる。ある作家の棚の前で涙をこぼしていた女性。実は高校生のときに学校の焼却炉で何冊もの本を黙々と処分していた少女だという。いったい彼女に何があったのか、気になる堀田家の面々。「LOVEだねぇ」が沁みわたる、やさしさと温かいおせっかいに満ちた、人気シリーズ第9弾!

東京バンドワゴン」シリーズ9作目。
毎年1作ずつこのシリーズを読めることを、とても幸せに思っています。
春に刊行されるというのがまたいいんだな。
仲の良い大家族の持つあたたかい雰囲気が、春という季節にぴったりなのです。


東京下町にある古書店&カフェ「東亰バンドワゴン」を経営する堀田家という一家が主人公です。
一番上は83歳の店主・勘一から、下は3歳の鈴花ちゃん・かんなちゃんまでの4世代13人、さらに犬や猫もいるという、本当に賑やかな一家です。
シリーズのどの作品を読んでも、最初はプロローグ代わりのこの一家の紹介から始まります。
9作目ともなるとこの紹介文ももう何回も読んでいるわけで、内容はほぼ頭に入っているのに、それでも毎回律儀にきっちり読んでしまうのは、やはり語り手のサチおばあちゃんの柔らかな語りが読んでいて心地よいからでしょう。
このサチさんは勘一の奥さんですが、実はすでに他界しているものの、幽霊としてこの世に留まり堀田家を見守っているという設定です。
だから実質的にはサチさんも入れて14人家族と言ってもいいかもしれません。
さらにご近所さんやら常連さんやらご親戚やら、レギュラーの登場人物が非常に多く、しかも人間関係もけっこう複雑というのがこのシリーズの特徴ですが、それでも混乱することもなく読みやすいのがすごいなぁと毎作思っています。
1年に1作しか読まないのですから、登場頻度が低い人物のことなんかは当然忘れてしまっている部分もありますが、なぜだかこのシリーズの場合は読んでいるうちに自然に思い出せてくるのですよね。
この辺りの感覚は、テレビのドラマシリーズを観ている感覚に近いかもしれません。
もともと昭和のお茶の間ドラマをイメージして書かれた作品ということですから、それも納得です。


シリーズが進むにつれて、登場人物たちもみな歳をとっていくというのもこのシリーズの特徴です。
シリーズ途中で生まれた鈴花ちゃん・かんなちゃんがすっかりおしゃべり上手になって、さらに堀田家を賑やかにしているのがなんとも微笑ましくてあたたかい気持ちになります。
でも、この9作目で一番成長を感じさせてくれたのは、何と言っても研人くんでしょう。
高校受験を控えた中学3年生なのに、受験勉強もそっちのけでギターに夢中の研人。
祖父である伝説のロッカー我南人 (がなと) の影響を強く受けて、ちゃんと才能もあるらしく、すでにミュージシャンとしての第一歩を踏み出してもいます。
そんな彼が高校受験せずにロックの本場イギリスへ行きたいと言い出し、堀田家は大騒ぎになりますが、自分に才能があるのならそれをもっと磨きたい、試したいと思うのは当然のことですね。
けれども大人としてはもっと堅実な道を選びなさいと言いたくもなってしまう、これも自然なことです。
ですが、反抗期の研人がちゃんと周りの大人たちの意見を聞き、いとこにあたる花陽が本物の姉のように研人にアドバイスする様子に、ふたりともどんどん大人になっていっているんだなぁと感慨深くなりました。
たくさんの大人に毎日囲まれているからこそ大人びているところもあるのでしょうが、自分自身の思いだけで考えたり動いたりするのではなく、周りの人たちの言葉を素直に聞けるというのは、人として大切なことだと思いますし、夢を叶えるためにもきっと役立つ資質だと思います。
研人くん、頑張れ、と心から応援したくなりました。


抜群の安定感で、シリーズ9作目も楽しませてくれました。
勘一もまだまだ元気そうでかなり長生きしそうですから、これからも長くシリーズが続いていくことと信じています。
私も堀田家の物語を追いかけ続けられるように、ずっと元気でいなくちゃなりませんね。
☆4つ。