tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『優しい死神の飼い方』知念実希人

優しい死神の飼い方 (光文社文庫)

優しい死神の飼い方 (光文社文庫)


犬の姿を借り、地上のホスピスに左遷…もとい派遣された死神のレオ。戦時中の悲恋。洋館で起きた殺人事件。色彩を失った画家。死に直面する人間を未練から救うため、患者たちの過去の謎を解き明かしていくレオ。しかし、彼の行動は、現在のホスピスに思わぬ危機を引き起こしていた―。天然キャラの死神の奮闘と人間との交流に、心温まるハートフルミステリー。

知念実希人さんの作品を読むのは2冊目ですが、最近の知念さんの驚異的な刊行スピードには常々驚かされています。
本業は勤務医みたいですが、お医者さんって多忙なイメージがあるのに、一体どこにそんな時間があるんだろう……と思ってしまいます。
かなり筆が速いタイプなんでしょうか。
もちろん単に執筆速度が速いというだけでは出版社も新刊を出させてはくれないのですから、人気もちゃんとついてきているということですよね。
素直にすごいなぁと思います。


本作の主人公は、なんと死神!
死んだ人間の魂をあの世へ導くという役目を担っていますが、ある時左遷されて (本人?は否定していますが)、古い洋館を利用したホスピスへ赴きます。
しかも、ゴールデンレトリバーの姿になって。
上司のミスで冬なのに夏毛仕様にされてしまい、凍死寸前のところを、ホスピスで働く看護師の菜穂に拾われ、レオと名付けられた死神は、そのホスピスに入院中の患者たちが強い未練を持っていることを知り、彼らの地縛霊化を防ぐため、それぞれの過去を探り未練を解決していきます。
最初は連作短編集っぽい雰囲気で、3人の患者の未練に関するエピソードが語られます。
それぞれのエピソードが微妙につながっているようで、おっこれは?とその関連性を気にしつつ読み進めていくと、それらのエピソードはホスピスが直面している問題に結びついていきます。
ミステリ度はそれほど高くはないと思いますが、伏線の張り方やストーリーの展開の仕方はミステリの基本がしっかり押さえられています。
中身が死神とはいえ、主人公 (語り手) が犬ですからほのぼの路線になるのかと思いきや、けっこう血なまぐさいエピソードも多く登場し、終盤にはアクション映画的なハラハラドキドキの展開もあって、「心温まるハートフルミステリー」というだけではない多彩な側面を持つ物語でした。


個人的に一番惹かれたのは、主役であるレオの造形です。
死神という立場から、人間を自分より下等な存在とみなし、最初は非常に偉そうな態度が鼻につきますが、菜穂やホスピスの患者たちと交流するうちにだんだん人間に感情移入するようになっていきます。
徐々に犬の姿に慣れて犬っぽい振る舞いを覚えたり、シュークリームが大好物になったりという変化もありますが、最終的には犬というよりも人間臭くなっていくところがなんだか可愛くて憎めません。
人間を馬鹿にしているのかと思いきや、面倒見は非常にいいですし、未練に囚われる患者たちや天然ボケっぽい菜穂へのツッコミも的確です。
ラストの菜穂との別れの場面は、最後にそういう展開が来ると分かっていても切なくて涙が出ました。
拾ってくれた人間が心優しい菜穂だったからこそ、レオもいい意味での人間臭さを持つことができたのかもしれませんが、その一方で死神としての自らの仕事に誇りを持って取り組む気高さやかっこよさも感じられ、とても魅力的なキャラクターでした。


現役の医師が書いているだけあって、病気のことや人間の体のことについては本格的な描写がされているのがさすがです。
『黒猫の小夜曲 (セレナーデ)』という続編もあるそうで、こちらはどんな死神が登場するのか、文庫化されたらぜひ読みたいと思います。
☆4つ。