tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『探偵は今夜も憂鬱』樋口有介

探偵は今夜も憂鬱 (創元推理文庫)

探偵は今夜も憂鬱 (創元推理文庫)


美女に振りまわされつつ、事件調査も生活の糧にしているフリーライターの柚木草平。エステ・クラブの美人オーナーからは義妹に関する調査、芸能プロダクションの社長からは失踪した女優の捜索、雑貨店の美人オーナーからは死んだはずの夫から送られてきた手紙の調査の依頼が舞い込むが…。柚木を憂鬱に、そしてやる気にさせる美女からの三つの依頼。私立探偵シリーズ第三弾。

美女にめっぽう弱い38歳バツイチ子持ちの元刑事が美女がらみの事件の謎を解く「柚木草平」シリーズ第3弾です。
厄介そうな事件を持ち込まれて、気乗りしなかったくせに美女が絡むとついつい首を突っ込んでいってしまう柚木の「病気」は3作目でも相変わらず。
しかも事件で出逢った美女たちに心をときめかせて幸せなのかと思いきや、事件の結末は柚木にとって決してよいものではないことのほうが多いような気がする。
何度も何度も辛い思いやむなしい気持ちにさせられて、それでも美女がらみとなれば事件に関わらずにはいられないのは…やっぱり「病気」以外の何物でもないですね。
相変わらず美女たちに振り回される柚木の姿は滑稽でもあり、哀しくもあり、そしてなぜだかちょっぴりいとおしかったりもします。


今回は中編集ということで長編の前2作に比べるとかなりコンパクトな物語になっているのですが、事件の真相の意外性は上がっているように思いました。
登場人物はそれほど多くないのに、さまざまな人間関係や心情、過去のしがらみなどがうまく絡み合って興味深い謎を作り上げています。
作者はあとがきで「短編は苦手だ」と書かれていますが、どうしてどうして、なかなかお上手じゃないですか。
作家として筆力が上がっているというのもあるのでしょうね。
とても読みやすく、それでいて謎解きも柚木と美女たちの会話も面白くて飽きさせません。
また、柚木は前2作に比べ、ハードボイルド度が上がっているようにも思います。
「中年の哀愁」が漂っているのが見えるかのようです。
38歳なんてまだそこまで哀愁を漂わせるほどの歳じゃないと思うのですが…。
でも、そんな渋い柚木だからこそ、不思議なほどに女性たちにモテるのでしょうね。
前作で非常に面白かった別居中の娘や奥さんとの会話が登場しなかったのは少し物足りなかったのですが、気楽に楽しめるライトミステリとしておすすめです。
☆4つ。