tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『時生』東野圭吾

時生 (講談社文庫)

時生 (講談社文庫)


1979年、浅草。時を超えた奇跡の物語
男は父親になっていく。「彼」との出会いによって。
俺は、あんたの息子なんだよ、宮本拓実さん。未来から来たんだ。
あと何年かしたら、あんたも結婚して子供を作る。
その子にあんたはトキオという名前をつける。
その子は17歳の時、ある事情で過去に戻る。
それが俺なんだよ。

やっぱり東野さんはうまいなぁ…。
登場人物たちの心に響くセリフも、ラストも…。
いかにもお涙ちょうだいのあくどい感動ものではなく、じんわりと自然に涙が盛り上がってくるような感動物を書かせたら東野さんが一番かもしれないと思います。


主人公の宮本拓実は、職を転々とし、恋人のヒモ状態で、けんかっ早くてこらえ性がないという、典型的なダメ男。
彼は自分が養子であることから、自分を捨てた母を恨み、すべてを自分の不幸な生い立ちのせいにして生きてきました。
そんな拓実のもとに、ある日奇妙な男が現れます。
それはなんと未来からやってきた拓実の息子のトキオなのでした…。
ダメ人間な父を救うために未来からやってきた息子。
なんとなくこの設定から私は「ドラえもん」を思い起こしてしまったのですが…(笑)
この作品は「親子の絆」を感じさせてくれる作品ですね。
過去の父に会いに来て、若い父と言葉を交わせることがうれしくてたまらないといった感じのトキオの姿にグッと来ます。
息子のトキオ(この時点では拓実はトキオが自分の息子であることは知らないのですが)の行動や言葉に影響されて、少しずつ変わっていく拓実の姿も感動的です。
親と子どもは、お互いにお互いから学びあって成長していくものなのですね。
「親になるということの意味」が少し分かったような気がしました。


登場人物の中では、あるごたごたに巻き込まれた拓実とトキオを何かと助けてくれる竹美という女性がとても魅力的です。
自分の生い立ちを言い訳にしてばかりで、お金にばかりこだわる拓実とは対象的に、竹美は自分の不幸な過去もすべて自分の運命と受け止めて、前向きに懸命に生きています。
そんな竹美が拓実に対して言う言葉、「配られたカードで勝負するしかないやろ」には特に胸を打たれました。
人生はカードゲームのようなもので、最初から強いカードばかり配られている人もいれば、弱いカードばかりの人もいるのですよね。
大事なのは手持ちのカードがどんなものでもそれに文句を言わず、自分に与えられたカードを最大限に生かして人生のゲームに勝つ(=幸せになる)ための努力をすること…。
竹美がバリバリの大阪弁なのもいいですね。
大阪弁で何でもハッキリものを言う竹美だからこそ、このセリフがイヤミにならず、素直に胸に響いてくるのだと思います。


作中の舞台の半分以上が大阪なので、私としては「地元の物語」としても非常に楽しめました。
特に最後に拓実がトキオと共にある人物に会いに行く病院は、私の出身高校のご近所なんですよ。
感動したい人、これから親になる人、今子育て真っ最中の人、大阪の人(笑)にお薦めします。
☆5つ!!


ところで単行本の『トキオ』から『時生』に改題した意図は何…?
『トキオ』でいいと思うけどなぁ。