tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『失踪HOLIDAY』乙一

失踪HOLIDAY (角川スニーカー文庫)

失踪HOLIDAY (角川スニーカー文庫)


14歳の冬休み、わたしはいなくなった―。
大金持ちのひとり娘ナオはママハハとの大喧嘩のすえ、衝動的に家出!
その失踪先は…となりの建物!!
こっそりと家族の大騒ぎを監視していたナオだったが、事態は思わぬ方向に転がって…!?
心からやすらげる場所を求める果敢で無敵な女の子の物語。
その他うまく生きられない「僕」とやさしい幽霊の切ない一瞬、「しあわせは子猫のかたち」を収録。
きみが抱える痛みに、そっと触れます。

最近ちょっとハマり気味の乙一さんの『失踪HOLIDAY』を読了です。


切なさの達人と言われる乙一さん。
この本に収録の『しあわせは子猫のかたち』もその称号(?)にふさわしい作品。
タイトルがまずいいですね。
題材的にはホラーっぽいのですが、タイトルから連想されるほのぼのさ、あたたかい感じが全編を通して漂っています。
ちょっと悲しい結末だが、読後感は非常にいいです。
それというのも、最後の、ある登場人物から主人公にあてて書かれた手紙が最高なのです。
そう、生きていくということは、つらいこと・悲しいこと・悔しいことをいっぱい経験していかなければならないということだけど、それでもそんなに悪いものじゃないよね。
主人公とともに、読者も元気になれそうな作品でした。


表題作の『失踪HOLIDAY』は家庭にあまり恵まれない少女が、自分が起こした失踪騒動を通して成長する物語なのかと思いきや、意外な結末を迎えるミステリでした。
こちらはあまり切なさを感じませんでしたが、語り口がなかなか面白く、主人公の少女に共感できる部分も多々ありました。
また、この作品も読後感が非常によいのです。
大騒ぎの後の穏やかな幸せが感じられて、ほのぼのします。
主人公の成長物語という見方もあながち間違ってはないかもしれません。
自分がとった行動と、その結果を見て、主人公は間違いなくひとつ大人への階段をのぼったはずですから。