tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『雪煙チェイス』東野圭吾


殺人の容疑をかけられた大学生の脇坂竜実。彼のアリバイを証明できる唯一の人物―正体不明の美人スノーボーダーを捜しに、竜実は日本屈指のスキー場に向かった。それを追うのは「本庁より先に捕らえろ」と命じられた所轄の刑事・小杉。村の人々も巻き込み、広大なゲレンデを舞台に予測不能のチェイスが始まる!どんでん返し連続の痛快ノンストップ・サスペンス。

東野圭吾さんの文庫書き下ろし雪山シリーズ第3弾が登場しました。
第2弾の『疾風ロンド』は映画化されましたね。
本作と一部登場人物が共通しているので、映画で演じている俳優さんのイメージを思い浮かべながら読むと、より物語が映像的に感じられてよかったです。


今回も舞台は雪山、シーズン真っ盛りのスキー場!
当然登場人物たちがスキーやスノーボードで雪山を滑走するシーンがたくさん登場します。
風景の雄大さ、美しさはもちろんのこと、スキーヤースノーボーダーが疾走するスピード感もしっかりと伝わってきます。
そういう意味でも非常に映像的な作品だと思います。
雪山なんて寒くてとんでもないという人もいるでしょうが、私のように普段雪になじみがないせいか雪景色を見るとテンションが上がる人間としては、活字とはいえ一面の銀世界で展開される物語にワクワクしてしまいます。
東野さんですから当然読みやすさは折り紙つき。
内容が社会派の重厚なものではなく、軽めのエンターテインメントに徹していることもあって、するすると気持ちよく読み進められます。


ただ、出版社によるあらすじ紹介が少々的外れなのが残念です。
この作品は「サスペンス」ではない、と思います。
ハラハラドキドキ感や恐怖感はあまり、いや、ほとんど感じられませんでした。
というのも、主人公の大学生が警察に追われる理由が、なんだかお間抜けで滑稽なため、緊迫感に欠けるのです。
状況証拠しかないのに被害者の犬の散歩のバイトをしていた学生を殺人犯と決めつけて、自分の面子を守るために捕まえようと躍起になる警察、というのはもちろんあえて大げさに描いてコミカルさを出しているのだと思いますが、どうにもバカっぽく思えて仕方ありません。
そんな警察から必死で逃げて、自らの無実を証明できる人を探し出そうとする大学生側も、これまた滑稽に見えてきてしまいます。
最初からコメディだと思って読めば面白いのですが、あらすじを真に受けてサスペンスミステリだと思って読むと期待外れでがっかりすることになりそうです。
また、「どんでん返し連続」という惹句にも首を傾げざるを得ません。
物語に起伏はもちろんありますし、ラストに向けて後半はちゃんと盛り上がりを見せ、意外な事実が明らかになったりもしますが、驚くようなどんでん返しが仕掛けられているわけではないのです。
東野さんのことはミステリ作家だと認識している人が多いと思いますし、得意分野のミステリ面を売りにしたいのは分からなくもないですが、この作品はコメディとしてアピールした方がよさそうだなと思いました。
スキー場にはつきもの (?) の恋愛も、前面には押し出されていないもののしっかり描かれていますし、それならば雪山を舞台にしたコメディで、ミステリ風味のスパイスも少々、ぐらいの紹介が一番この作品にはしっくりくる気がします。


作品としては悪くはないのに、出版社の売り方のせいで損をしている気がしてなりません。
案の定ショッピングサイトのレビューは軒並み低評価になってしまっています。
その点がとてももったいないですが、コメディとしてはそれなりの水準でリーダビリティも高く、この季節にこたつでぬくぬくしながらのんびり読書するにはぴったりの作品だと思います。
☆4つ。


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