- 作者: 東野圭吾
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2010/10/05
- メディア: 文庫
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「我々は、いつ、どこからでも爆破できる」。年の瀬のスキー場に脅迫状が届いた。警察に通報できない状況を嘲笑うかのように繰り返される、山中でのトリッキーな身代金奪取。雪上を乗っ取った犯人の動機は金目当てか、それとも復讐か。すべての鍵は、一年前に血に染まった禁断のゲレンデにあり。今、犯人との命を賭けたレースが始まる。圧倒的な疾走感で読者を翻弄する、痛快サスペンス。
実業之日本社文庫創刊の呼び物として、東野圭吾さんの最新作がいきなり文庫で登場。
文庫派の私には非常にありがたい企画です。
舞台はシーズンが始まったばかりのスキー場。
ゲレンデのコース内のどこかに爆発物を埋めたという脅迫状が届き、スキー場運営会社の面々は、営業面を考えると警察には通報できないという結論を出します。
脅迫犯の要求する通りに身代金を支払うことになりますが…。
スノーボードにハマっている東野さんとしては、趣味と実益を兼ねた作品といったところでしょうか。
さすがのストーリーテリングの上手さで、ぐいぐい読ませるのは確か。
ただ、「東野さんの作品としては」、ちょっと物足りないと言わざるを得ません。
スキー場の客全員が人質になるという設定があまり上手く活かせていないかなと思いました。
本当にスキー場のコース内に爆弾が埋まっていて、大勢の人の命が危険にさらされているのなら大変なことなのに、なんだか読んでいてあまり緊迫感が感じられませんでした。
雪山が舞台のミステリというと、どうしても真保裕一さんの『ホワイトアウト』を思い出すのですが、『ホワイトアウト』を読んでいる時に感じたドキドキして手に汗握る感じがこの作品では全く味わえなかった。
それが一番残念なところです。
もう少しスケールの大きい話かと思ったのですが、意外に小さくまとまってしまっているという印象を受けてしまいました。
ミステリとしてももうひとひねりほしかったような…。
犯人にもそれほど意外性はありませんでした。
いきなり否定的なことを書いてしまいましたが、これは「東野さんの作品だから」このような感想になるのです。
他の作家さんだったらもうちょっと違った感想になっていたかもしれない。
それほど東野さんの作品に対する期待度は高いのです。
東野さんがいかにこれまでたくさんの素晴らしい作品を多数生み出してこられたかということだと思います。
文章の読みやすさや展開のスピードはさすがに安定したレベルを保っているので、誰でも安心して読める作品であることは間違いありません。
ただやっぱり、東野さんの作品をすでに50作ほども読んできた私のような人間からすると、東野さんはもっともっとすごい作品が書けるはずだと思ってしまうのですよね…。
自分の業績がハードルを高くしてしまっているわけで、東野さんにとっては皮肉な話ですが、多少刊行ペースが落ちてもかまわないから、じっくり取り組んで骨太な作品をまた生み出していただけたら…と思います。
ちなみにウインタースポーツに縁遠い私には、スキーやスノーボードの専門用語(?)は正直言ってよく分かりませんでした。
そのあたりもあまりのめりこめなかった要因かも…。
もし映像化されたら終盤の犯人追跡シーンなんかはいい感じになりそうな気もします。
でもやっぱり私は社会派ミステリが一番好きかな。
またガツンと胸に来るような、読み応えのある作品を待っています。
☆3つ。