tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『自薦 THE どんでん返し』


十七歳年下の女性と結婚した助教授。妻が恐るべき運命を告白する…。ベストセラーを目指せと、編集長にたきつけられた作家はどこへ…。完璧なアリバイがあるのに、自分が犯人と供述する女子高生の目的は…。貸別荘で発見された五つの死体。全員死亡しているため、誰が犯人で誰が被害者なのか不明だ…。推理作家が、猟奇殺人の動機を解明すべく頼った人物とは…。独身の資産家を訪ねた甥。その甥には完全犯罪の計画があった…。六つのどんでん返しが、あなたを虜にする。

先日『2』を読んだので、順番が逆ですが第一弾の方も読んでみることにしました。
こういうアンソロジーは気軽にいろんな作家さんの作品が楽しめるのでいいですね。
ちょっと試食してみよう、という感覚でしょうか。
ただ、今回の未読作家は西澤保彦さんだけでした。
もしかすると西澤さんも別のアンソロジーでは読んだことがあったかもしれません。
他の執筆陣も、綾辻行人さん、有栖川有栖さん、貫井徳郎さん、法月綸太郎さん、東川篤哉さんという錚々たるメンバーで、さすがに読みやすさと一定のクオリティは折り紙つきです。


作品の質についてはさすがのものなのですが、タイトルの「どんでん返し」については、「どんでん返し」といえるほどの驚きの展開はあまりない、というのが正直な印象です。
一番「どんでん返し」っぽいのは法月綸太郎さんの「カニバリズム小論」でしょうか。
最後まで読んで、そういうことだったのかと膝を打ちました。
カニバリズム」というだけあってグロテスクなところは個人的にはあまり好きではありませんが、ミステリとしてはオチがきれいに決まっていてよかったと思います。
有栖川有栖さんの「書く機械 (ライティング・マシン)」の、思わぬ方向へと向かっていく展開も面白かったです。
作家さんが作家のことを書いた話というのは面白いものですね。
ついついご自分の経験も反映されているのかな、などと邪推してしまいますがどうなのでしょう。
作中に描かれている情景を思い浮かべてみると、ぞっとするやら笑えてくるやら……。
どちらかというとユーモアミステリに分類される話だと思います。
ユーモアミステリといえば東川篤哉さんの「藤枝邸の完全なる密室」は犯人の滑稽さが笑えました。
密室を作ったはずが実は――というミステリとしてのオチも面白かったです。


個人的な好みで言えば、貫井徳郎さんの「蝶番の問題」は、登場人物が書いた手記の文章の中にすべての手がかりが含まれているというもので、読者も注意深く読めば真相にたどり着けるというフェアさがとても好きです。
やはりミステリは、物語を読むだけでなく、自分も謎解きに参加できるとさらに楽しめますね。
美形の俺様推理作家という探偵役・吉祥院先輩の人物造形も面白いです。
西澤保彦さんの「アリバイ・ジ・アンビバレンス」も登場人物の面白さで楽しませてくれる作品でした。
最後の方はメインのキャラクターふたりの会話のみで構成されており、推理合戦の行方が存分に楽しめます。
最後に、好きな作家のひとりである綾辻行人さんですが、今回の作品「再生」は私にはグロテスクすぎてちょっとつらかったです。
ミステリというよりはホラーなので、好みが分かれそうな気がします。
最後のオチには心底ゾッとしました。
この怖さが好きな人にはたまらないのでしょうけども……。


気分良く読める作品ばかりではなかったですが、どの作家さんの文章も読みやすく、長すぎず短すぎない適度なボリュームで、気になる作家さんが収録されているという場合は読んでみて損のないアンソロジーだと思います。
もし第3弾があるとしたら、今度はもっと「どんでん返し」の多いものを期待したいです。
☆4つ。


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