tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『模倣の殺意』中町信

模倣の殺意 (創元推理文庫)

模倣の殺意 (創元推理文庫)


七月七日の午後七時、新進作家、坂井正夫が青酸カリによる服毒死を遂げた。遺書はなかったが、世を儚んでの自殺として処理された。坂井に編集雑務を頼んでいた医学書系の出版社に勤める中田秋子は、彼の部屋で偶然行きあわせた遠賀野律子の存在が気になり、独自に調査を始める。一方、ルポライターの津久見伸助は、同人誌仲間だった坂井の死を記事にするよう雑誌社から依頼され、調べを進める内に、坂井がようやくの思いで発表にこぎつけた受賞後第一作が、さる有名作家の短編の盗作である疑惑が持ち上がり、坂井と確執のあった編集者、柳沢邦夫を追及していく。著者が絶対の自信を持って読者に仕掛ける超絶のトリック。記念すべきデビュー長編の改稿決定版。

2013年の創元推理文庫売上第1位の作品とのことです。
新聞の書評欄でも話題の作品として取り上げられていたので気にはなっていました。
このたび、東京創元社60周年のフェア対象商品となっていたので買ってみました。


あらすじは上記の出版社によるものがとても詳しいのでもうこれで十分かな。
というかこれ以上書くとネタバレになってしまいそうです。
医学書系の出版社の編集者である中田秋子と、週刊誌に事件ルポを書いているライターの津久見伸助。
この2人の視点の物語が交互に進みます。
彼らの共通点は、自殺とされた坂井正夫という新人作家の死を他殺ではないかと疑い、その謎をそれぞれの立場から追っているところです。
2つ(または2つ以上)の視点でストーリーが進んでいくという形式は、ミステリでは特に多いですね。
それがうまくミスリードにつながっている作品が多いですが、この作品もそのパターンです。
ですので正直に言って新鮮さには乏しいのですが、読み慣れた形式なのでとても読みやすく、推理に集中できました。
同じ事件を追っているのに秋子と津久見が全く交錯しないので、これは怪しいなあと思ってはいましたが…、着地点は予想したのとは少し違っていました。
「驚愕の結末」というほどではありませんが、なるほどそう来るか~という意外性はありました。


この作品は昨年急にブレイクしましたが、元は1973年に発表されたものなんですね。
物語を読み進める際には、そのことも頭に入れておくべきかと思います。
現代が舞台という感覚で読んでしまうと、細かいところが気になってストーリーに集中できなくなりそうです。
細かいところが気になると言えば、秋子がやけにお金のことを気にする(宿代の高さだとか、事件の調査を出張ついでに行ったり、長距離電話の料金を気にしたり…)ところがとても気になって、もしかして事件の真相に関係するのかと勘繰っていましたが、そうでもなかったようで…。
40年前の編集者の収入がどの程度だったのかよく知りませんが、独身女性とはいえそんなに節約しなければならないものかなぁと気になって仕方ありませんでした。
まあそういうタイプの人物だという、特徴づけなのでしょうけども。
ミステリも謎解きだけでは面白くありませんからね。


40年前の作品とはいえ、それほど古さも感じず読みやすかったです。
久しぶりに読むタイプのミステリでしたが、やはりミステリは面白いなぁとその魅力を再確認できました。
☆4つ。