tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『日本人なら必ず悪訳する英文』越前敏弥

越前敏弥の日本人なら必ず悪訳する英文 (ディスカヴァー携書)

越前敏弥の日本人なら必ず悪訳する英文 (ディスカヴァー携書)


『日本人なら必ず誤訳する英文』で、全国6万人の英語自慢の鼻を見事にへし折った彼から、新たな挑戦状が到着!「誤読・誤訳に陥りがちな英文・文法」に続いて、今回は「より自然でかつ正確な訳文を当てるスキル」を読者に問う。まさに、翻訳学校やカルチャーセンターで1,000人に及ぶ翻訳学習者と接してきた著者だからこそ書ける内容であり、すべての英語学習者が知っておくべき日本語訳の学習法や、英文を深く読みとるための秘訣を惜しみなく公開するものである。

前作『日本人なら必ず誤訳する英文』が面白かったのでこちらも購入してみました。
翻訳する上で落とし穴になりやすい英文の構造や文法についての解説が多かった前作と比べると、今回は英語というよりむしろ日本語の表現に関する問題への言及が多くなっています。


前作同様、例題を出して、翻訳学校の生徒さんの訳を例に挙げて、どこが問題かを解説するという形式ですが、大体どの辺りが問題か見当がつくものが多かったです。
これは私の翻訳力が上がったのか、単に前作でパターン慣れしたのか…。
帯に載っている例文「逃亡中の犯人はジェフリーズという男らしい。彼を殺してやりたい」が日本語としてどこがおかしいかという問題も、最初に感じた違和感がそのまま正解でした。
英語が苦手な人でも、日本語での文章力(読む方も書く方も)がそれなりにある人なら正解を出せるのではないかなぁと思いました。
そういう意味では書名に「英文」とついている点が「英語の読解を指南する本」というミスリードになってしまっている気がします。
本書の焦点はどちらかというと英文よりも日本語の表現の方にあるので、書名だけ見て読むと、イメージと違ってあれれと思うかもしれません。
まぁでも新書のタイトルってこんなものかな…。
前作とタイトルを揃える意図もあったのでしょうから、仕方ないのかもしれません。


ただ、個人的には越前さんの翻訳に対する考え方は大いに共感できましたし、参考にもなりました。
「翻訳とは『原著者が仮に日本語を知っていたら、そう書くにちがいないような日本語にすること』」と言われていますが、これは私も同じように考えています。
また、出版翻訳の仕事に必要な適性は、「本が大好き」「日本語が大好き」「調べものが大好き」の3つだとも言われていますが、これは出版翻訳に限らず産業翻訳(ビジネス文書などの翻訳)でも同じではないかなと思いました。


私も翻訳学校で産業翻訳を学びましたが、翻訳の勉強の中で強く実感したのは、英語力以上に日本語力が重要だということと、調べものを厭わずとことんまで調べつくす粘り強さと知識欲がなければできない仕事だということでした。
単に英語が好きで、文章を読むのも書くのも好きだから…というのが私が翻訳の勉強を始めた理由でしたが、勉強を進めるにつれ、それだけでは翻訳者にはなれないと強く感じるようになりました。
幸い私は調べものも苦にはなりませんが、翻訳ってけっこう向き不向きが大きい仕事なんじゃないかなと思います。
越前さんも書かれているように、英語ができるなら翻訳も問題なくできるだろうと考える人は多いようですが、そうではないということがこの本を読めばよく分かると思います。
翻訳に対する思い込みや誤解をなくすという点でとてもよい1冊です。


また、越前さんの訳書『ダ・ヴィンチ・コード』の翻訳に挑戦する章があったのは、この作品のファンとしてはうれしかったです。
解説も細かく丁寧で、とても分かりやすいです。
と言っても翻訳に正解はないので(もちろん誤訳はだめですが)、自分ならこう訳すなぁなどとあれこれ考えながら読むのが楽しく、やはり私は翻訳が好きなんだなと改めて感じることもできました。
同じように通訳者さんが、実際のスピーチや会議などでの訳例を挙げながら通訳の真髄に迫る本があったらそれも面白いかも…とも思いました。
3作目がもし出るとしたら次はどんなタイトルになるんだろう…?
なんだかんだ言いつつ、次が出たらまた買ってしまいそうな気がします。