tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『名探偵の呪縛』東野圭吾

名探偵の呪縛 (講談社文庫)

名探偵の呪縛 (講談社文庫)


図書館を訪れた「私」は、いつの間にか別世界に迷い込み、探偵天下一になっていた。次々起こる怪事件。だが何かがおかしい。じつはそこは、「本格推理」という概念の存在しない街だったのだ。この街を作った者の正体は?そして街にかけられた呪いとは何なのか。『名探偵の掟』の主人公が長編で再登場。

前作『名探偵の掟』では、短編集という形で本格ミステリのお約束を思い切り皮肉った東野さん。
主人公・天下一探偵が、今回は長編の舞台で活躍することになります。


推理作家である「私」は仕事で使う資料を求めて図書館を訪れ、そこで突然パラレルワールド(?)に迷い込みます。
しかも「私」はいつの間にか天下一という名の探偵になっていました。
その世界は「本格推理」というものが存在しないという、何やら奇妙な場所でしたが、「私」=天下一は成り行きに任せてある事件の謎を解くことになります。


『名探偵の掟』同様、好き嫌いが分かれる作品だろうなと思いますが、私はこういう皮肉が効いた作品は好きですね。
ある程度ミステリを読み慣れていて、いろいろなお約束が頭に入っている人でなければなかなかこの作品の面白さは分からないだろうなと思いますが、逆に言うとミステリをたくさん読んでいる人がたまにこういう変化球に出会うととても楽しめるのではないでしょうか。


前作と違って純粋にミステリとしても楽しめる趣向にしてありますし、さまざまなミステリのお約束もあまりマニアックすぎないので、多少前作よりは読みやすくなっています。
前作ほど笑える場面というのはありませんでしたが、本格ミステリのワンパターンなお約束やご都合主義を笑い飛ばしつつも、本格への愛情が感じられるような気がして私は前作よりこちらの方が気に入りました。
特にラストの展開は東野さんの本音が表れているんじゃないかなぁと。
本格ミステリでデビューして、SFっぽいものから社会派のものまで、さまざまな作品を書かれている東野さんだからこそ本作を書けたのだろうと思いました。


本格推理の世界を舞台に、本格推理の矛盾やおかしさを皮肉る。
この構造自体がもう皮肉ですよね。
同時に、奇妙な世界だと笑いながらも、その世界から離れられないこれまた奇妙な魅力があるのも事実で…。
本格ファンが本格に惹かれる理由が分かるような気もします。
私もファンというほどたくさん読んでいるわけではありませんが、本格好きのひとり。
東野さんがこの作品を書いた意図や理由が、よく分かるのでした。
読んでいて楽しかったです。
☆4つ。