tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『彼女はたぶん魔法を使う』樋口有介

彼女はたぶん魔法を使う (創元推理文庫)

彼女はたぶん魔法を使う (創元推理文庫)


元刑事でフリーライターの柚木草平は、雑誌への寄稿の傍ら事件調査も行なう私立探偵。今回もち込まれたのは、女子大生轢き逃げ事件。車種も年式も判明したのに、車も犯人も発見されていないという。被害者の姉の依頼で調査を始めたところ、話を聞いた被害者の同級生が殺害される。私生活でも調査でも、出会う女性は美女ばかりで、事件とともに柚木を悩ませる。人気シリーズ第一弾。

これの前に読んだのが宮部さんの新刊『名もなき毒』で、これが話が重かったので(宮部さんの作品の中ではそれほど重いほうではないかもしれませんが…)次は軽く読めるものがいいな、と選んだのがこの作品。
結果、この選択は大正解でした。
ミステリではありますが謎解きがメインというわけではなく、主人公と主人公を取り巻く女性たちとの会話が面白くてさらりと読めました。


謎解きもそれなりにひねりがあって、最後にどんでん返しもあり、けっこう意外な結末を迎えるのですが、なんと言ってもこの作品の肝は主人公・柚木草平の不思議な魅力と、彼が出会う美女たちでしょう。
柚木はとにかく美女と縁があるようです。
しかもそれだけではなくて、かなりモテるようです。
ルックスについては作品中では触れられていないのでわかりませんが、パッと読んだところ、年齢は38歳だし妻子と別居中だし元上司と不倫中だしチェーンスモーカーな上に酒好きで趣味は洗濯(これは売りになるかも?)という、およそモテそうもない男なのに、彼と接する女性たちはみんな最初は胡散臭く思っていても、最後は憎からず彼のことを思うようになってしまう。
正直「なんで?」と思うわけですが、そういえば確かに彼は美女に対してその美しさをほめることを怠らない。
歯が浮くようなきざな台詞も臆面なく口に出して、一見軽いプレイボーイなのかと思いきや実は紳士的で、むやみやたらと女性に手を出すようなことはなく、別居中の奥さんを別にすれば恋人はただ一人だけで、ステディな関係を保っている。
どうやらこのあたりに柚木がモテる理由がありそうです。
基本的に女性を立てる方向に持っていくので、それも「女王様気分」のようなものを味わえて女性にとっては心地よいのでしょう。
柚木と女性たちの会話はテンポもよくユーモアたっぷりでなかなか笑えます。
特に柚木と娘の加奈子との会話が秀逸でした。
訳あって(その訳が詳しく明かされていないので、続編が気になるところ)別居中ですが、なかなか息の合ったよい親子だと思います。


唯一、いくら柚木がいい男だったとしても(笑)、そう簡単に女性が一人暮らしの部屋に男を入れるものだろうか?という疑問はありましたが、まぁその辺は男性の願望が込められているのでしょうね。
☆4つです。