tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『不良少女』樋口有介

不良少女 (創元推理文庫)

不良少女 (創元推理文庫)


原稿書きの仕事があるのに、ついついは事件調査のアルバイトをしてしまう柚木草平。コンビニで出会った金髪の少女が巻き込まれた出来事に、成り行きで巻き込まれた顛末を描く表題作「不良少女」をはじめ、吉島冴子や小高直海から回してもらったり、クロコダイルで出会った女から直接受けたりと、憂鬱ながらも心惹かれる依頼の数々。ファン待望の未収録短編集、文庫オリジナルで登場!

相も変わらずいい女が絡むと事件調査の依頼を断りきれずに厄介ごとに巻き込まれてしまう、元刑事で現在は刑事事件専門のフリーライターである柚木草平。
このシリーズもついにこの7冊目の短編集『不良少女』をもって創元推理文庫での復刊を完了。
次には『捨て猫という名前の猫』という長編新作が刊行予定です。


さて、今回は短編集ということで、やはり長編に比べると物足りなさがあるかな…。
あまりすっきりしない終わり方の作品もあって、もうちょっと踏み込んで書いて欲しかったと思えるところもあります。
ですが、柚木草平シリーズの魅力である、柚木が出逢う印象的な美女たちやハードボイルドタッチの文体は健在。
今回の美女たちは女子高生から30代まで、柚木の守備範囲の広さがうかがえる顔ぶれです。
これに毎回おなじみの不倫相手の吉島冴子や担当編集者の小高直海まで加わって(別居中の奥さんと娘が登場しないのは少々残念ですが…)、本当ににぎやかな雰囲気。
ですが自虐的で厭世的な柚木の1人称で語られると、あまり華やかな感じがしなくて、常に視界が灰色であるような気がしてしまうのが可笑しいところです。
これだけ女性に囲まれて、けっこういい思いもしている柚木ですが、こういう「女にだらしない」タイプの男性がそれでも女性にモテるのは、柚木の渋さや不良っぽい容貌だけではなくて、弱い立場にある女性を放っておけない優しさが最大の原因なのでしょう。
表題作「不良少女」で見せる、お金持ちの家庭に生まれながら親の愛情に恵まれない孤独な少女・ユカへの柚木の優しさは、ただ女好きだからだけではなく、元刑事としての正義感や柚木自身の価値観や性格から出てくるものだと思います。


とりあえず柚木シリーズはこれで一段落。
新作の長編を楽しみに待ちたいと思います。
☆3つ。