tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『少女の時間』樋口有介

少女の時間 (創元推理文庫)

少女の時間 (創元推理文庫)


月刊EYESの小高直海の同級生という女性から、2年前の女子高校生殺害事件の調査を請け負った刑事事件専門のフリーライター・柚木草平。東南アジアからの留学生支援のボランティアをしていた女子高生が殺害され、大森の神社で発見された事件だ。しかし、話を聞き始めた翌日に、関係者の一人が急死する事態となる。事故か殺人か、2年前の事件との関連性を疑う柚木だが……。女子高生殺害事件を追う所轄の女性刑事、資産家の母娘など、調査で出会う女性は美女ばかり、二つの事件に隠された真実に辿り着けるのか──。“永遠の38歳"柚木草平の軽やかな名推理。

元は警視庁の刑事で、現在は刑事事件専門のフリーライターとして糊口をしのぐ、柚木草平を主人公とするシリーズの11作目です。
途中に番外編的な作品も含んでいますが、どの作品でも柚木は変わらず38歳で、妻と娘とは別居中で、警視庁の警部である吉沢冴子と不倫しつつ、ほかにもたくさんの美女たちに振り回されながら殺人事件について調べて記事を書く、という基本的な構成は同じです。
こう書くとワンパターンのようですが、確かにそういう面もあるものの、実は少しずつ変化もあって、本作ではかなり重要な変化が柚木に訪れようとしています。
今までのパターンが崩されかねない大変化ながら、柚木はそれほど感情的になるでもなく淡々としているところが、いかにも柚木らしいなという感じです。
そう、なぜか美女に縁があり、本作でもなじみの編集者から事件関係者まで、やたらと美女 (美少女とオカマを含む) にばかり囲まれる柚木なのですが、デレデレとだらしない感じはなく、どちらかというとハードボイルドを保っています。
本作は女性人気が高いらしいですが (私も女性ですが)、それは柚木がそういう男だからなのでしょう。
女性に不快感を与えないモテ男。
それが柚木なのです。


それにしても柚木が出会う女性たちは、みな美人でありながらなぜこんなに個性的な人ばかりなのでしょう。
今回は東南アジアの留学生たちを支援するNGOが舞台の事件ということもあり、外国に縁がある女性たちが登場しますが、個性的を通り越して変人レベルの人までいます。
なかなか会話が柚木の思い通りには成立しない相手もいて、さすがの柚木も苦戦気味ですが、それでもなんとか事件の調査が進んでいくのは、柚木の豊富な経験と人脈のおかげでしょうか。
新しい登場人物の中では、柚木のもとに持ち込まれた殺人事件の担当捜査官である夕子がいいなあと思いました。
「新しい」といっても、作者の他の作品から出張してきた人物だそうですが、警察が持っている情報をバンバン柚木に渡してしまうという大胆さ (無謀さ?)、事件解決をあきらめない執念と真面目さが、柚木とは好相性のように思えます。
実際、彼女の働きがなければ柚木も真相にはたどり着けなかったでしょう。
このシリーズは推理を楽しむ本格ミステリではなく、あくまでも柚木が事件を調査する過程のストーリーを楽しむタイプの作品なので、事件の真相に特にしかけや驚きがあるわけではないのですが、柚木や柚木の周りの人物たちの会話や行動、思い付きなどが大きくストーリーに影響してきます。
そういう意味で夕子の存在感は、柚木と色恋沙汰になる女性たち以上に大きいものでしたし、柚木の相棒として、シリーズおなじみの雑誌編集者・直海を超える働きぶりでした。
今作のみの登場ではもったいないと思えるほどなので、ぜひ今後もちょくちょく顔を出してくれたらうれしいです。


しかしまあ、柚木も毎回なかなか危ない橋を渡っているのに、大惨事にまでは至っていないのは、運がいいのか何なのか。
今回も最後の場面は絶体絶命というところで終わっていますが、この後どんな修羅場が柚木を待ち受けているのか、一度読んでみたいというか、恐ろしくて読みたくないというか……。
小学6年生の娘の加奈子ちゃんも思春期に突入してますます手ごわくなっていますし、今後のシリーズの展開が楽しみです。
☆4つ。




●関連過去記事●
tonton.hatenablog.jp