tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『夢の終わりとそのつづき』樋口有介

夢の終わりとそのつづき (創元推理文庫)

夢の終わりとそのつづき (創元推理文庫)


警視庁を辞めて8ヶ月、雑誌への寄稿で食いつないでいた俺を、においたつような美女が訪ねて来た。久我山にある家から出て行く男を、1週間尾行するという依頼。元刑事の俺にとって、1週間の尾行など簡単な仕事。それに報酬は200万円と、一抹の不安を感じつつもさっそく久我山へ向かう。目的の男は、1日中買い食いをしながら東京中を歩き回るのみ。うんざりした俺が、知人の夢子に尾行を任せた3日目、男は新宿の公園で餓死してしまう。直前まで飲み食いしていた男の身に何が起こったのか? 若き日の柚木草平を描いたシリーズ第5弾。文庫オリジナル。

元刑事のフリーライターで、いい女にめっぽう弱い柚木草平を主人公にしたシリーズの5作目です。
5作目でありながら、作中の柚木はまだ35歳。
時間軸的には、1作目の『彼女はたぶん魔法を使う』より3年前にあたります。


そのためか、今作の柚木はなんだかとても若く感じました。
外見については分かりませんが、行動がやたらと若いですね。
他のシリーズ作の中では、女好きといえどもただ口がうまく軽いノリで出会った女性を褒め称え、口説いてみるだけの少々軟派な中年男、というだけの印象でしたが、今作では本気で出会った女性に恋をしてしまっているようです。
35歳と38歳だとそんなに違うものなのでしょうか。
それともこの事件を境に柚木はすっかり落ち着いた(?)大人になってしまったとか…?
3年のあいだに何があったのかもぜひ知りたいものです。
もちろん厭世的で自虐的な柚木の性格はあまり変わってはいないんですけどね。


事件の方も今回は少々他の作品と毛色が異なるような気がしました。
途中SFっぽい要素が出てきた時は、もしやバカミスかと思いましたが…、まぁ落としどころはまともでしょうか。
それでも少し現実離れしている感は否めず、柚木シリーズには似合わないような気もしましたが、この作品はもともとは作者・樋口有介さんのデビュー前の習作ということですし、作者自身の若さが柚木にも事件内容にも滲み出しているのかな、と思いました。
でも最初の謎だらけの展開はよかったですね。
名前も名乗らない謎の美女からもたらされた、顔も名前も素性も分からない謎の男性を尾行するという、目的も謎の仕事。
尾行中の男は謎の行動を繰り返し、挙句の果てには謎の死を遂げる…。
ここからどう事件が動き出していくのかと、ドキドキしながら読みました。
やはりミステリには謎がてんこ盛りでないと!
まだシリーズは続くようなので、この先も楽しみです。
☆3つ。