- 作者: 東野圭吾
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1998/11/13
- メディア: 文庫
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奪取された超大型特殊ヘリコプターには爆薬が満載されていた。無人操縦でホバリングしているのは、稼働中の原子力発電所の真上。日本国民すべてを人質にしたテロリストの脅迫に対し、政府が下した非情の決断とは。そしてヘリの燃料が尽きるとき……。驚愕のクライシス、圧倒的な緊追感で魅了する傑作サスペンス。
東野圭吾さんの作品はかなり読んだのですが、まだいくつか未読が残っています。
そのうちのひとつが本書。
「映画化決定」との帯がついていたので、これは今のうちに読んでおかなければと手に取りました。
自衛隊の新しい大型ヘリコプターがメーカーから盗まれ、自動操縦によって福井県敦賀市にある原子力発電所の高速増殖炉(「もんじゅ」がモデルでしょうか)の上空へ。
ヘリを盗んだ犯人から、日本国中の原発を止めた上で破壊しなければ、ヘリを墜落させるという脅迫状が関係各所へ送られます。
そこから始まる、原発関係者、ヘリコプター開発関係者、警察、自衛隊、そして犯人の、長い長い半日を追ったクライシスサスペンスです。
登場人物が多く、視点となる人物もたびたび変わり、さらにはヘリコプターや原発関連の専門用語も満載ですが、それでも読みづらさはほとんど感じませんでした。
事件がどうなるのか気になってどんどんページを進めさせられる、この読み心地は最近の東野作品と全く変わりません。
とにかく、現在巻かれている帯でも触れられていますが、この作品が書かれたのが1995年だということに驚かずにはいられません。
福島第一原発事故が起きた今だからこそ、多くの人が原発の問題を自分のこととして考えるようになったと思いますが、東野さんは阪神大震災が起きた1995年時点で原発問題に目を向けて、日本人を啓発するような作品をこうして書いていたということに、さすがベストセラー作家というのは先見の明があるのだなと感心することしきりです。
原発をテーマにしていますが、推進派と反対派、原発に特に関わりもなく関心もない一般人、そして実際に原発関連の業務に携わる技術者など、多種多様な視点を取り入れて書かれており、そういう意味では非常にフェアで、偏りのない描き方をされているところが特によいと思いました。
東野さんは、原発がいいとも悪いとも言っていません。
ただ、原発を他人事としか思っていない人が多いことを問題視しているのです。
私自身、福島第一原発事故が起こるまで、正直なところ原発問題について無知であり、無関心でした。
ただなんとなく、チェルノブイリ事故のようなことが起こったら怖いなと漠然と思っているだけで、それ以上のことは何も知らなかったし、知ろうともしなかった。
福島での事故後、なんて自分は浅はかだったのだろうと深く反省し、新聞や雑誌などの原発関連の記事を見つけた時は必ず読むようになりました。
それでも知識はまだまだ浅く、実際この作品に書かれている原発に関するあれこれも、知らないことがたくさんありました。
原発から遠く離れた地域に住んでいたとしても、決して原発問題は他人事などではないということが、本書を読むとよく分かるようになっています。
日本人ひとりひとりが、自分のこととして原発問題に関心を持ち、必要な知識を身に付け、その上でこれからのこの国の原発政策をどうしていくのか、議論しなければならない。
この作品は福島の事故が起こるずっと前にそう訴えているのに、事故後4年が経とうとしている今に至っても議論が十分だとは思えない状況であることが、本当に残念だと思わずにはいられませんでした。
個人的には犯人の「動機」に「やられた」という気分になりました。
そういう意味では、良質のホワイダニットミステリであるとも言えるかもしれません。
犯人の最後のひとことが、ぐさりと胸に突き刺さりました。
今だからこそ読まれるべき作品ですし、映像化が決まって実際に多くの人の目に触れるであろうことは、歓迎すべきことだと思います。
☆5つ。