tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『晴れた日は謎を追って がまくら市事件』


不可能犯罪ばかりが起こる街、蝦蟇倉市。賑やかな商店街や老婦人が営む和菓子屋があり、いわくつきの崖や海を望むホテルがあるこの街は、一見のどかなようで、どこかおかしい。蝦蟇倉警察署には“不可能犯罪係”が存在し、スーパーの駐車場では怪しい相談屋が事務所を開いている。この街の日常は、いつも謎に彩られている。第一線で活躍する作家たちによる、不思議な街の道案内。

複数のミステリ作家がアイディアを出し合って創造された、蝦蟇倉(がまくら)市という架空の地方都市を舞台とするミステリアンソロジーです。
不可能犯罪が「名物」という蝦蟇倉市の設定がなかなか面白く、いろんなテイストの短編が読めてとても楽しい1冊でした。
それでは各収録作品の感想を。


「弓投げの崖を見てはいけない」道尾秀介
正統派の本格ミステリ
道尾さんの作品はよく読んでいますが、ミステリらしいミステリを読むのは久しぶりな気がして、その分とても楽しく読めました。
この作品はあまり多くを語らない方がいいですね。
ネタバレになってしまうから。
すっかり騙されてしまいました。
また、ラストも読者が推理できるような結末になっていて素晴らしい。
巻末のあとがきでヒントを書いてくれていたので、私もこの作品の真の結末にたどり着けたと思います。


「浜田青年ホントスカ」伊坂幸太郎
伊坂さんらしくユーモアあふれる短編。
道尾さんの作品とのつながり具合に遊び心が感じられて、この手のアンソロジー企画ならではの面白さを生み出しています。
また、作中に出てくるくだらないダジャレに、ところどころププッと笑わされました。
ラストはちょっとゾクッとするような結末なのですが、そこもあまり怖さを感じさせないというか、最後まで軽妙さを失わないところがいつもの伊坂ミステリですね。


「不可能犯罪係自身の事件」大山誠一郎
蝦蟇倉市は不可能犯罪が多いという設定を生み出したのはこの作品でしょうか。
あまりに不可能犯罪が多いので蝦蟇倉警察署には不可能犯罪係という不可能犯罪の専門部署が作られており、その部署の一員である真知(まち)博士を主人公とする本格ミステリです。
作中に描かれる不可能犯罪のトリックもなかなか面白かったですが、何と言っても真知博士というキャラクターが立っているのがよかったです。
新たな探偵キャラとして、シリーズ化しても面白そうです。


「大黒天」福田栄一
伊坂さんの作品にちらっと登場したエピソードを膨らませたと思われる作品。
和菓子屋さんの店頭に飾られた大黒人形に関する謎を、亡くなった和菓子屋店主の孫が解くというストーリーです。
収録作品の中で唯一殺人事件が起こらない(未遂はありますが…)作品であり、家族がテーマになっていることもあってか、どこかあたたかみが感じられる作品でした。
道尾さんの作品に登場した人物が再登場しているのもうれしいですね。


「Gカップ・フェイント」伯方雪日
最後の収録作品は、なんと格闘技ミステリ。
格闘技があまり好きではなく、知識もない私には、技の名前などよく分からない部分もありましたが、非常に新鮮な感覚で読めました。
主人公の父親である蝦蟇倉警察署不可能犯罪係の刑事のキャラクターも面白いですが、この作品で初登場の蝦蟇倉市長がこれまた強烈なキャラクター。
さらに格闘技ネタを存分に活かした大技なトリックにもびっくり。
想像してみるとなかなか笑えるトリックで、ちょっとバカミスっぽいところがよかったです。


いろんなタイプのミステリが読めて、ミステリ好きにはたまらないアンソロジーでした。
実はこのアンソロジー、うれしいことにもう1冊同時刊行されているのです。
続けてそちらも読み始めています。
☆4つ。