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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『思い出のマーニー』ジョーン・G・ロビンソン

新訳 思い出のマーニー (角川文庫)

新訳 思い出のマーニー (角川文庫)


家族を亡くしたアンナは、やさしいプレストン夫妻のもとで暮らしている。ところがすべてに無気力で友だちもできない。心配したミセス・プレストンの計らいで、アンナはひと夏を海辺の田舎町で暮らすことに。そこでアンナはマーニーというとても不思議な女の子に出会う。アンナを大きく変える、奇跡の物語の始まりだった。愛と友情と少女の成長を描く感動の名作が、越前敏弥・ないとうふみこによる、読みやすい新訳で登場!

現在公開中のジブリ映画の原作本です。
映画を観に行った帰りに購入しました。
正直に言って「めちゃくちゃ好き」とも「すごくいい映画だ」とも思えなかったのですが、作品世界や雰囲気にはどこか惹かれるものがあり、原作も読んでみたいなという気になりました。
少なくともそう思わせるだけの力が映画にあったということですね。


映画の方は現代日本が舞台に変更されていますが、原作はイギリスが舞台です。
主人公のアンナはロンドンっ子。
両親を早くに失い、学校では友達もできず、孤独を抱えながら無気力に過ごすうちに、ぜんそくまで発症してしまったアンナを心配した養母のミセス・プレストンは、アンナを海辺の小さな町で過ごさせることにします。
その町でアンナが出会ったのは湿地屋敷に住むマーニーという名の女の子。
すぐに彼女と友達になったアンナでしたが、マーニーはいつも気が付くとどこかへ姿を消してしまいます。
やがてマーニーとの別れの日がやってきて――。


原作本を読んでいて思ったのは、映画はかなり原作に忠実な作りなんだなということ。
舞台が変更されてはいますが、基本的なストーリー展開は同じ。
もちろん場所や時代が違う分、異なる部分もありますが、その異なる部分も原作から大きくそれない範囲でうまく変更しているなと感じました。
特に「魔法の輪のようなもの」の描き方が、映画は原作以上にうまかったと思います。
本当は魔法の輪の「中」に入りたいのに、うまく「中」に入れなくて、ちょっとひねくれてしまってますます状況を悪化させてしまう杏奈(映画での主人公の名前)の姿が痛々しく、その後マーニーと出会って仲良く日々を過ごすうちに少しずつ変わっていく過程がうまく描かれていました。
原作は学校での場面もぜんそくで苦しむような場面もなかったせいで、アンナが無気力になってしまっている理由が映画より伝わりにくいように感じました。


とはいえマーニーとの交流の部分は原作も映画も同等によかったと思います。
湿地屋敷の描写は原作でも映画でもとても魅力的に感じました。
謎めいた洋館にちょっと不思議な美少女…その雰囲気作りがとてもいいですね。
入り江の描写も、舟に乗るふたりの少女の描写も、自分にもこんな少女時代の思い出があればいいのに、と思わせます。
その後、それほど大きな事件も起こらないまま、マーニーはアンナの前から去っていき、湿地屋敷には新たな住人がやってくるのですが、この新たな住人の描写は映画よりも原作の方が好きです。
原作での新たな住人はリンジー家といって、5人のきょうだいとその両親からなる家族です。
彼らはとてもいい人たちで、あたたかく居心地のよさそうな素敵な家庭なのですが、それでもマーニーと出会う前のアンナだったら、彼らは「魔法の輪の中の人たちだ、だから自分とは違う種類の人たちなんだ」と考えて敬遠していたでしょう。
それが、一度彼らの輪の中に入ることに成功すると、あとはどんどん仲良くなっていくのです。
そんなアンナの成長した姿が感動的でした。
リンジー家のあたたかくて賑やかな家族の輪の中で、アンナはマーニーの正体を知ることになるのですが、それがアンナがもう孤独ではないことを強く感じさせてくれていいなと思いました。


映画と原作、両方に触れることで、より深く物語を味わうことができました。
原作も読んでみて本当によかったと思います。
私は映画が先で原作が後という順番でしたが、原作が先でも全く問題はないと思われます。
映画を観ようと思っている人には、ぜひ原作も読んでみることをお勧めしたいです。
☆4つ。