tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『謎解きはディナーのあとで』東川篤哉

謎解きはディナーのあとで (小学館文庫)

謎解きはディナーのあとで (小学館文庫)


国立署の新米刑事、宝生麗子は世界的に有名な『宝生グループ』のお嬢様。
『風祭モータース』の御曹司である風祭警部の下で、数々の事件に奮闘中だ。
大豪邸に帰ると、地味なパンツスーツからドレスに着替えてディナーを楽しむ麗子だが、難解な事件にぶちあたるたびに、その一部始終を相談する相手は”執事兼運転手”の影山。
「お嬢様の目は節穴でございますか?」
暴言すれすれの毒舌で麗子の推理力のなさを指摘しつつも、影山は鮮やかに謎を解き明かしていく――
2011年本屋大賞受賞の大人気ミステリ。
書き下ろしショートショート収録!

言わずと知れた大ベストセラー。
嵐の櫻井翔くんと北川景子さん主演でドラマ化もされ、さらに来年は映画も公開されるとのこと。
話題作だしミステリは好きなので読んでみようということで手に取ってみました。


金融にエレクトロニクスに医薬品にミステリ出版と多業種にわたってその名を轟かせる一大企業グループ「宝生グループ」の社長の一人娘、宝生麗子は、国立署に勤める刑事。
愛車のジャガーで現場に駆けつけ、嫌味な自慢話ばかりのウザい上司・風祭警部にうんざりさせられながらも、新米刑事として事件現場で奮闘しています。
そんな彼女の強い味方(?)は、宝生家に仕える若き執事・影山。
実は彼には事件のあらましを聞いただけで見事に謎を解き明かし、事件を解決に導くという特殊能力があるのでした。


もっとバカミスっぽいノリなのかなと勝手な先入観を抱いて読み始めたら、意外にもしっかりとした本格ミステリだったので少し驚きました。
伏線もしっかり張られているし、きちんと理詰めで謎が解けるようになっています。
影山の謎解きも論理的で、語り口も明快で分かりやすい。
もともと東川篤哉さんはミステリファンの間では評価されていたというのも納得です。
文章も軽いタッチで読みやすいし、殺人事件は起こりますが残酷なシーンや描写といったものはないので、ミステリを普段読まないという人でも十分楽しめるのではないでしょうか。
むしろミステリ初心者にこそお勧めしたいなと思いました。
収録されている全6話+ショートショートの中では、第四話の「花嫁は密室の中でございます」が一番ミステリ的に面白かったです。


一方で、ユーモアミステリとしては、個人的にはあまり相性が良くなかったようです。
麗子と風祭警部や影山との会話、地の文での描写や麗子のモノローグなど、ギャグっぽい部分がそれほど面白いとは思えませんでした。
軽妙な文章とギャグっぽいノリで軽く読めるのはいいのですが、思わず吹き出してしまうような、そんな笑える面白さではありませんでした。
おそらく作者と私の笑いのツボが違うのでしょう…これは残念としか言いようがありません。
登場人物についても、今はやりの(?)執事を探偵役にするという目の付け所はよいと思うのですが、いまひとつキャラクターが立っていない感じがします。
風祭警部はかなり個性的に描かれていますが、おバカなボンボンというステレオタイプな設定で新鮮味には欠けますし、麗子と影山については性格付けが中途半端に感じられて、どうにも感情移入しにくかったです。
特に影山は毒舌の側面をのぞかせてはいますが、それ以外の性格や私生活は謎のまま。
謎にするならいっそのこと、この作品同様にドラマ化された『鍵のかかった部屋』の榎本のように、もっと得体の知れない不気味なキャラにした方が面白かったかもしれないなと考えてしまいました。


この手のギャグ系の話は、小説よりも絵や映像で視覚に訴えた方がおそらく効果的な気がします。
その意味ではドラマがヒットしたのは納得です。
ミステリとしてはしっかりとした土台があり、文章も適度な軽さで読みやすいので、普段読書をしない人が小説の世界に入るきっかけの1冊にするのにちょうどいいと思います。
ただ、私にはちょっと物足りなかったなぁ…。
☆3つ。