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『メインテーマは殺人』アンソニー・ホロヴィッツ / 山田蘭・訳

メインテーマは殺人 (創元推理文庫)

メインテーマは殺人 (創元推理文庫)


自らの葬儀の手配をしたまさにその日、資産家の老婦人は絞殺された。彼女は、自分が殺されると知っていたのか?作家のわたし、ホロヴィッツはドラマの脚本執筆で知りあった元刑事ホーソーンから、この奇妙な事件を捜査する自分を本にしないかと誘われる…。自らをワトスン役に配した、謎解きの魅力全開の犯人当てミステリ!7冠制覇の『カササギ殺人事件』に並ぶ傑作!

昨年の『カササギ殺人事件』に続いて、今年も海外ミステリのランキングを制覇してしまったアンソニーホロヴィッツさんの『メインテーマは殺人』。
カササギ殺人事件』が面白かったので、本作はほとんど評判も見ないままに購入したのですが、期待を裏切らず面白かったです。


カササギ殺人事件』はちょうど上巻から下巻へ移るタイミングで大きな仕掛けがあり、非常に驚かされたものでしたが、それに比べると本作は地味というか、あまり大きな仕掛けも盛り上がりもありません。
謎解きはほぼフーダニット (誰が犯人か?) に限定されていますが、それだけにシンプルでわかりやすいストーリー展開が魅力です。
とてもオーソドックスで、端正なミステリだなという印象を受けました。
丁寧に伏線が張られ、随所にヒントがちりばめられています。
最後まで読み終わってからもう一度最初の方に戻ってみると、冒頭の章からすぐに謎解きの手掛かりが登場していることに驚かされること間違いなしです。
もちろんミステリとしてフェアプレイに徹しているので、自分でも謎解きをしながら読んでも楽しいし、単にストーリーを追っていくだけでも十分楽しめるので、生粋のミステリ好きから初心者まで、誰でも読者として受け入れてくれる懐の深さがよいですね。
ミステリは時にマニアックになりがちで、案外こういう万人受けする上にクオリティが高い作品というのは貴重だと思います。
作者はコナン・ドイル財団から認められた公式の「シャーロック・ホームズ」シリーズ続編の作者でもあります。
本作は完全なオリジナルですが、それでも探偵役のホーソーンと助手役のホロヴィッツ (作者自身!) のコンビは明らかにホームズとワトソンの名コンビを意識して描かれており、読んでいて楽しい気分にさせられました。
カササギ殺人事件』はアガサ・クリスティのオマージュでしたが、そういう英国の古典ミステリの伝統をしっかり受け継いだ作家の登場が何よりうれしいのです。
私にとってはホームズもクリスティも10代の若かりし頃に読んだ、ミステリの原点ともいえる存在なので、なんだか懐かしい気分になり、初心に戻った心地がしました。


本作は謎解きにあまり関係ない部分も面白くて、特にワトソン役を作者自身が務めているところが好きです。
その作者の一人称で物語が進むのですが、テレビや映画の脚本を手掛けてきた作者らしく、実在の俳優や映画監督、テレビドラマや映画作品のタイトルがわんさか出てきます。
知っている名前が出てくると、やはりうれしいものですね。
一気に作品世界が身近なものに感じられます。
そして、作家である作者自身の作品名ももちろん登場しますが、だんだん興味がわいてきて読んでみたくなってくるところは商売上手だなあと感心しました。
冒頭の第1章は作中のホロヴィッツが書いた原稿をそのまま使用しているという設定になっています。
その内容についてホーソーンがツッコミを入れ、不正確な描写を入れるななどとホロヴィッツに注意する場面は思わず笑みが浮かびましたが、考えてみるとこれはミステリとしては非常に重要なところで、以後の描写に嘘や誇張がないことをこのホーソーンの指摘によって保証させているわけです。
さすがフェアプレイにこだわるミステリ作家ですね。
ホーソーンがなかなか付き合いづらいタイプの人間なので、最初のうちホロヴィッツは彼に対する文句や愚痴ばかりで、ちゃんとコンビとして協力し合って謎を解くことができるのかと心配になるくらいですが、次第にホーソーンに惹かれていくのもいいですね。
名探偵にはやはり人を引き付ける不思議な魅力がなくては。
あまり自分のことを語らないホーソーンが最後の最後に少しだけ見せる素顔も興味深く感じられました。
同性愛嫌悪の一面があるという描写もありましたが、これについてはホロヴィッツが気分を害しただけで流された印象で少しひっかかったので、今後のシリーズで背景が語られることを期待したいです。


本作はシリーズ1作目なので、まだ導入にすぎず、あっさりめの印象でした。
今後のホーソーンホロヴィッツのコンビ関係の行方も気になりますし、もちろん次はどんな謎解きを見せてくれるのだろうという期待もあります。
また、先を楽しみにできるシリーズが増えて、素直にうれしく思います。
☆4つ。




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