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『天と地の守り人 -第一部 ロタ王国編-』上橋菜穂子

天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)

天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)


大海原に身を投じたチャグム皇子を探して欲しい―密かな依頼を受けバルサはかすかな手がかりを追ってチャグムを探す困難な旅へ乗り出していく。刻一刻と迫るタルシュ帝国による侵略の波、ロタ王国の内側に潜む陰謀の影。そして、ゆるやかに巡り来る異界ナユグの春。懸命に探索を続けるバルサは、チャグムを見つけることが出来るのか…。大河物語最終章三部作、いよいよ開幕。

ついに守り人シリーズも佳境へ。
なんだかもう、あらすじを読んだだけで泣けるのですけど…。
きっと最後まで涙なしには読めないだろうなぁ。


前作『蒼路の旅人』のラストがすごい終わり方だっただけに、完結編の『天と地の守り人』が待ち遠しくてなりませんでした。
自分の国を、民を、守りたいという一心で、無謀な賭けに出たチャグム。
いくら彼がたくましく成長したと言っても、バルサのようにひとりで過酷な旅を乗り越えていけるほど強いわけではありません。
しかも彼は新ヨゴ皇国の皇太子という身分。
味方もたくさんいますが、それ以上に命を狙ってくる敵の方が多いという状況です。
果たして彼の旅路は困難と絶望の連続でした。
その道筋を追っていくバルサの心情が丁寧に描かれていて、泣かせます。
ただただチャグムに幸せになってほしいと、そうバルサに思われるチャグムはある意味で幸せ者ですが、それでも背負っているものの重さとつりあいが取れているとは思えません。
けれども、自分が背負っているのは「国の運命」だとか、そういう重荷なのではなくて、「夢」なのだ、というチャグムの言葉が胸を打ちました。


そしてこれは『神の守り人』や『蒼路の旅人』でも感じたことですが、広い世界には人間の数だけいろいろな立場や考え方があるものだと改めて思わされます。
国が違えば立場が異なるのは当然ですが、国の中でもいろいろな人たちがいて、バルサとチャグムでさえ、その立場は全然違うのです。
国なんて自分には関係ないと言ってしまえる一匹狼的なバルサに対し、チャグムは皇太子として国を見捨てることはできません。
いろいろな立場や考え方や価値観を持った人々が張り巡らす策略と陰謀の網の目の中、チャグムの「一人でも多くの民を救いたい」という思いがいかにまっとうで清廉なものであっても、思い通りにことが運ばない悔しさ、腹立たしさ、切なさといった感情が、ただ物語を追っているだけの私の胸にも渦巻いていました。
それでも、どうにかして道を見つけ出して進んでいくしかないのですね。
何度罠に落ちて危険な目に遭っても、絶望にくじけそうになっても、わずかな希望の光がどこかに射していることを信じて…。


3部作の『天と地の守り人』。
チャグムとバルサの戦いはまだ始まったばかりです。
草兵として戦に駆り出されることになったタンダの命運が気になるところで、第二部に続きます。
☆4つ。
…それにしても…バルサが「タンダの腕の中で」考えたことを回想するシーンがあるのですけど、一体いつそんなことに!?とちょっと動揺してしまいました。
確かに『神の守り人』で急接近してはいましたが……。