『マスカレード・ナイト』東野圭吾

マスカレード・ナイト (集英社文庫)

練馬のマンションの一室で若い女性の他殺体が発見された。ホテル・コルテシア東京のカウントダウン・パーティに犯人が現れるという密告状が警視庁に届く。新田浩介は潜入捜査のため、再びフロントに立つ。コンシェルジュに抜擢された山岸尚美はお客様への対応に追われていた。華麗なる仮面舞踏会が迫るなか、顔も分からない犯人を捕まえることができるのか！？ホテル最大の危機に名コンビが挑む。

『マスカレード・ホテル』『マスカレード・イブ』と続く、「ホテル・コルテシア東京」を舞台とするミステリシリーズの第3弾です。
木村拓哉さんと長澤まさみさんの主演で映画化もされましたね。
個人的にはシリーズの中でこの3作目が一番面白いと感じました。

今回は大みそかの夜にホテル・コルテシア東京で開催されるカウントダウン仮装パーティー、通称「マスカレード・ナイト」に、ある殺人事件の犯人が現れるという匿名の密告が警察にあり、またまた新田刑事をはじめとする警視庁の面々がコルテシア東京で潜入捜査を行うという筋書きです。
過去の事件で新田たちに協力したフロントクラークの山岸尚美はというと、現在はコンシェルジュになっています。
コンシェルジュというと、宿泊客のリクエストに応えて観光場所や飲食店を案内するとか？と想像していたら、それも間違いではありませんが、尚美がやっているのはもっともっと大変なお仕事でした。
クレーマーよりも厄介なのではないかと思えるほどの無理難題が、複数の客から次々に尚美のもとに持ち込まれます。
正直なところ、物語中盤あたりまでは、事件の行方よりも尚美がどのように無理難題をさばいていくのかということの方が気になったくらいでした。
ですが、それも実は物語全体を通しての伏線になっているというのが本作のミソです。
ホテルのコンシェルジュという仕事と、警察の事件捜査とが絡み合ってひとつの線となり、思わぬ結末に導かれる展開は素直に巧いなと思いましたし、舞台がホテルという設定が存分に活かされています。

事件の方はというと、犯人の正体に一番驚きました。
コルテシア東京のイベント「マスカレード・ナイト」では、参加者が全員仮装をすることになっていますが、「仮面をかぶる」「変装をする」という行為が文字通りの意味でも比喩的な意味でも効果的に使われており、犯人の正体にもつながっています。
「人を見た目で判断してはいけない」などと言いますが、この事件の犯人はまさにそれ。
新田もすっかり騙されていて、ある意味痛快に感じました。
事件の構造が少々複雑なので、全貌を理解するのに時間がかかりましたが、それもご愛敬でしょうか。
読者がすべてを推理するのはちょっと難しそうですが、しっかりと伏線は張られていて、ミステリとしての面白さは十分に味わえました。
尚美がまたしても事件に巻き込まれてしまうのはちょっとご都合主義的かな……と思いつつも、彼女の敏腕ホテルマンぶりが彼女自身を救う伏線になっているのはよかったです。
新田に助けてもらうばかりではない、プロフェッショナルとして自立した女性像が現代的でとても魅力的でした。

ラストは尚美が新たな道へと進むことになり、シリーズもこれで完結かなと感じさせます。
今年はホテル業界も大変な1年だったことと思いますし、来年もまだしばらくは苦境が続くかもしれません。
コンシェルジュ、フロントクラークだけではなく、ハウスキーピングのような裏方まで、ホテルでのプロの仕事ぶりを描いた本作は、ホテルで働くすべての人へのエールとしても読めるのではないかと思います。
私は客側の立場ですが、コルテシア東京のようなちょっといいホテルに泊まって、尚美のような敏腕ホテルマンの心尽くしのサービスを受けてみたくなりました。
☆4つ。

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