- 作者:小野 不由美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2019/10/12
- メディア: 文庫
- 作者:小野 不由美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2019/10/12
- メディア: 文庫
- 作者:小野 不由美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2019/11/09
- メディア: 文庫
- 作者:小野 不由美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2019/11/09
- メディア: 文庫
戴国に麒麟が還る。王は何処へ―乍驍宗が登極から半年で消息を絶ち、泰麒も姿を消した。王不在から六年の歳月、人々は極寒と貧しさを凌ぎ生きた。案じる将軍李斎は慶国景王、雁国延王の助力を得て、泰麒を連れ戻すことが叶う。今、故国に戻った麒麟は無垢に願う、「王は、御無事」と。―白雉は落ちていない。一縷の望みを携え、無窮の旅が始まる!
なんと18年ぶりという、「十二国記」シリーズ新作。
ファンが長年待ちわびた本作では、ついに戴 (たい) 国の物語に決着がつくことになりました。
シリーズエピソード0という位置づけの『魔性の子』から始まって、戴国の麒麟である泰麒が王を選ぶまでが描かれる『風の海 迷宮の岸』、姿を消した王と泰麒を戴国将軍の李斎が救い出そうとする『黄昏の岸 暁の天』と続いてきた長い長い物語も、ようやく終幕です。
ですが、『黄昏の岸 暁の天』の結末を読んだときに予感したとおり、そう簡単に戴国に平和は訪れません。
シリーズ1作目『月の影 影の海』を読んだとき、なんて厳しく容赦のない物語なのだろうという感想を抱いたものでしたが、その印象はこの最新作でも変わりませんでした。
王が不在となった戴国は荒廃し、民は困窮しています。
そんな中を、泰麒や李斎は王の消息の手がかりがほとんどないまま旅を続けているという状態なので、とにかく物語のトーンが暗くて重くて息が詰まるような感じが延々続きます。
それでも中盤になってようやく希望の光が見え始め、「よかった」とホッと安堵の息をついて涙が出てくるような場面もあったりして、ああこれでようやくハッピーエンドに向かうんだ、と思ったところで登場人物だけではなく読者までをも絶望の淵に叩き落とすという展開には、もうある意味感心しましたね。
これこそ十二国記だ、と。
悲しいという感情も麻痺するほどに続く悲劇に、胸が悪くなりそうな残虐場面もあって、決して読んでいて楽しい物語ではないし、特に前半はテンポも悪くて読みづらいのですが、細かく丁寧に伏線を張っていくミステリ的な書き方は、これも小野さんらしいのではないでしょうか。
それらの伏線をきっちり回収し、この長大で闇の深い物語にしっかり結末をつけたのはさすがです。
最後は、「十二国記」シリーズでは恒例のことですが、歴史書の引用という体裁で終わります。
人々が苦難を耐え忍んだ長い年月も、ひとつのことを成し遂げるために払われた多大な犠牲も、それが歴史に変わった瞬間にたった数行の短い言葉でまとめられてしまうという、むなしいような切ないような読後の余韻も、「十二国記」シリーズに独特のものだと思います。
望みどおりの展開とはいかないところもありましたが、それでも十二国記ならではの物語を読めたというところに、大きな満足感がありました。
読み始める前はなんとなく泰麒が中心の物語になるのかなと思っていましたが、その予想は微妙に外れていました。
泰麒が物語のけん引役であることは確かですが、泰麒の視点で描かれる部分というのは少なく、内面の描写もごく一部だけなので、ある意味泰麒が一番意図がつかみにくい謎の人物のようにも思えます。
それでもやはりその成長ぶりには感動させられましたし、麒麟の理を意志の力でねじ伏せてしまうくだりなどは、涙なしには読めません。
ここに至るまでに泰麒が経験してきたことはあまりにも過酷なことばかりで、彼ばかりなぜこんなにつらい目に遭うのかと心を痛めてきましたが、それはすべて、ここにつながっていたのかと、ようやく少し報われたような気がしました。
結末近くになって李斎が「過去が現在を作る」と感慨深く来し方を振り返っていますが、まさにその通り!と読者としても同じ感慨を抱きます。
その李斎にしても、片腕を失うなど苦難の年月を送ってきました。
その彼女が、女将軍としての苦悩を吐露する場面が、強く印象に残っています。
十二国記は妊娠や出産のない世界なので、女性の役割が現実世界とは少し違っているような気がしていましたが、働く女性として思うこと、感じることは同じなのだなと、大いに共感しました。
こうした登場人物たちの魅力が、壮大な物語をさらに読み応えあるものにしていると思います。
驍宗 (ぎょうそう) から玉座を奪った阿選にしても、根っからの悪人というわけではないんですよね。
王宮の奥に引きこもらなければならなくなってしまったのは自業自得とはいえ、その愚かさはあまりにも人間臭くて憎みきれません。
驍宗にしても欠点のない王ではない。
だから本作は勧善懲悪の物語ではないし、李斎たちが驍宗を救い出そうとするのは、もちろん王に対する個人的な敬愛の念もありますが、国を立て直し困窮する民を救うのが最大の目的です。
単純じゃないからこそ面白いし、リアリティも感じられる物語なのです。
私は18年も待ったわけではないのですが、それでも『黄昏の岸 暁の天』を読んでからここまで、長かったなと思います。
来年、新作短編集が出るということが約束されているのが何よりもうれしい。
戴の物語は一応本作で完結しましたが、おそらく泣く泣く削らざるを得なかった部分が相当あると思われますし、でも陽子や楽俊にも久しぶりに会いたいし、他の国々のことももっと知りたい……と、読みたい話がこんなにもたくさんあるのは十二国記くらいです。
いつか読める日を楽しみに待っています。
☆5つ。
この記事の最後に、ネタバレ気味の内容を少しだけ。
ネタバレが嫌な人はここでページを閉じてくださいね。
●関連過去記事●
tonton.hatenablog.jp
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4巻最後の挿絵は意味深ですね。
そこに描かれている歴史書はとても分厚い、でも本作の内容はほんの数行分にすぎない。
ーーということは。
いつかその後の物語を読むことも、叶うのかもしれませんね。