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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『黄昏の岸 暁の天』小野不由美

黄昏の岸 暁の天 十二国記 (新潮文庫)

黄昏の岸 暁の天 十二国記 (新潮文庫)


驍宗が玉座に就いて半年、戴国は疾風の勢いで再興に向かう。しかし反乱鎮圧に赴いた王は戻らず、届いた凶報に衝撃を受けた泰麒も忽然と姿を消した。王と麒麟を失い、荒廃へと向かう国を案じる将軍は、命を賭して慶国を訪れ、援助を求める。戴国を救いたい―景王陽子の願いに諸国の麒麟たちが集う。はたして泰麒の行方は。

ああ、久しぶりにやってしまった…。
夜寝る前にちょっと読もう♪と思って読み始めたらやめられなくなり、最後まで読んでしまった挙句涙が止まらなくなり、次の日仕事なのに泣きながら寝る羽目になりました。
こんなに引力の強い物語、久々だなぁ。


新王が登極し、ようやく国が安定に向かうと思われた戴(たい)国。
しかし、ある者の裏切りにより王は行方不明となり、泰麒もどこかへと姿を消してしまいます。
たちまち国は傾き、戴国の将軍・李斎は瀕死の重傷を負いながら慶国へ助けを求めます。
戴国の危機を知った景王・陽子はなんとかして戴国を救いたいと思いますが、兵をもって他国を侵すことは大罪であると知り、どうしたものかと頭を悩ませます。
延王と延麒に助力を請い、その他の国々の王や麒麟とも協力して泰麒を捜索することになりますが、麒麟としての能力を失った泰麒はそう簡単には見つからず――。


今までは一国ごとの物語だった十二国記シリーズが、ここへ来てついに複数の国々が絡む物語になりました。
この展開にはワクワクさせられましたね。
これまでの物語で知っていた慶、戴、雁(えん)はもともとそれぞれの物語の中で少しくつながりがありましたが、他の国についてはどういうつながりがあるのか、またはないのか、よく分かりませんでしたから。
この現実世界のような国同士の関係(国交)というものはあまりないというのが十二国記世界だというのにはへぇ~と思いました。
だからこそ、蓬莱、つまりこの日本の、普通の女子高生だった陽子が、自分が生まれ育った世界における「国同士の助け合い」の仕組みを十二国記世界に持ち込もうとするのがとてもいいなぁと思ったのです。
まさに陽子にしかできない、陽子だからこそできる王としての仕事を彼女はやろうとしている。
それは陽子の成長の証であり、王という職務を彼女なりに懸命に全うしようとしている姿勢の表れです。
王となるまでの、そして王になってからの陽子の苦悩と苦難とをこれまでのシリーズを通して読んできた読者にとって、この陽子の姿には感動せずにはいられないでしょう。
ますます陽子というキャラクターに強く惹かれました。


そして、成長しているのは陽子だけではありません。
まだまだ幼く、陽子と同じく蓬莱出身ゆえに十二国記世界の摂理がよく分からず、麒麟でありながら無力感に囚われてきた泰麒も、確実に成長を遂げています。
少々ネタばれ気味になってしまいますが、苦難を経た後、成獣となって戻ってきた泰麒が李斎に対して語る言葉に、涙が止まらなくなりました。
よくここまで成長したという感嘆と。
そして、彼が経験した苦しみの大きさを想像した時の胸の痛みと、これから彼が直面するであろう苦難と危険の予感と。
それら全てに、押しつぶされそうな気持ちになりました。


シリーズ最初の『月の影 影の海』を読んだときに思ったのは、なんて主人公に対して厳しい物語なのだろうということでした。
でも、主人公だけに厳しいのではないのですね。
どの登場人物に対しても、そして読者に対しても厳しい作品なのです。
異世界ファンタジーというと、超人的な活躍をするヒーロー・ヒロインがいて、特殊能力を使えて、夢のような美しい世界で…といったイメージを持っている人も多いのではないかと思います。
でも十二国記はそうじゃない。
むしろそんなイメージこそがファンタジー=幻想なのだと突き付けてくるかのようです。
王がちょっと道を外れると国は傾き荒廃するし、凶悪な妖魔は跋扈するし、人間からは悪意や憎悪を向けられるし。
天帝という神のような存在が実在する(らしい)のに、祈っても窮状が救われることはない。
そうそう自分にとって都合のいい世界などというものがあるはずはなく、結局どの世界へ行っても人間というのものは卑小な存在で、あがき、悩み、苦しみ、もがきながら懸命に生きることしかできない生き物なのだと、思い知らされるようです。
だからこそ陽子や泰麒の成長が希望であり、胸を打たれるのです。
彼らの成長が、想像を絶するような苦難を経験したからこそのものだと分かっているから。
絶望の果てに希望はあるのだと思えるからです。
たくさんのものを失いながら、それでも前を向いて進んでいる陽子や泰麒の姿に、力をもらえるような気がしました。


重いトーンになりがちな物語世界ですが、延王や延麒の明るさ、そして初登場の氾王・氾麟の個性的なキャラクターに和みました。
ますます物語に奥行きが出てきたと思います。
この作品としては一応の結末は迎えましたが、まだまだ戴国の危機は続いています。
この続きは…きっと現在執筆中だという新作長編で読めるのですよね?
遅れてきた十二国記ファンの私ですが、すでに待ち遠しくてなりません。
講談社版で読んでいたファンの方々が抱いてきた新作への渇望感といったら、一体どれほどのものかと。
どうか「近日中」に新作を読めますように。
☆5つ。