- 作者: 小野不由美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/09/28
- メディア: 文庫
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この国の王になるのは、あたし!恭国(きょうこく)は先王が斃(たお)れて27年、王不在のまま治安は乱れ、妖魔までも徘徊(はいかい)していた。首都連檣(れんしょう)に住む少女珠晶(しゅしょう)は豪商の父のもと、なに不自由ない暮らしと教育を与えられ、闊達な娘に育つ。だが、混迷深まる国を憂えた珠晶はついに決断する。「大人が行かないのなら、あたしが蓬山(ほうざん)を目指す」と──12歳の少女は、神獣麒麟(きりん)によって、王として選ばれるのか。
どんどん新しい登場人物が増えて、世界が広がっていく「十二国記」シリーズ。
今回もまた新たな人物が登場しました。
今度は弱冠12歳の少女、珠晶。
元気な珠晶のエネルギーがあふれるような物語でした。
先王の死後27年も次の王が立たず、恭国は次第に荒れ始めていました。
この国の豪商の娘で12歳の珠晶は、王の登極を待つばかりで自ら何も動こうとしない周りの大人たちにいらつき、ついには自分が王となることを目指して、麒麟が王を選ぶ地・蓬山に向かいます。
しかし蓬山への道のりは険しく、珠晶も何度も危険な目に遭います。
さて彼女の運命は――?
とにかく珠晶のキャラクターが秀逸です。
12歳にして周りの大人にいら立ちを覚え、私が王になってやる!と思いつきそれを実行に移してしまう様子には、子どもらしい正義感の強さと、向こう見ずさと、利かん気の強さが見て取れます。
蓬山までの旅の途中でも、出会った大人たちに対する言動には、生意気で無謀で、大人の視点から見ると決して「かわいい」子どもではありません。
頭がよく決して馬鹿ではないところが却って一筋縄ではいかない子どもという印象を強めています。
正直なところ読んでいてイラッとする場面もいくつかありました。
けれども、珠晶の言動は決して無茶苦茶なわけではなく、ちゃんと筋が通っている部分が多いのです。
珠晶にイラつくのは、私が大人だからかなとも思いました。
国が荒れて、自分たちの生活もよくなる見込みがなく、不平不満を言うばかりで自分では国を良くするための行動を何も起こそうとしない大人たち。
確かに現実の世界にもこんな大人たくさんいるな、とドキリとさせられます。
王や官吏など、大きな責任を負う立場の人々に対して、自らがその責任を負う覚悟も持たず、安全な場所から外を眺めて文句を言い、そんな自分を責める珠晶に対しては子ども扱いする。
ただ批判するだけの人と、自ら行動に移す人と、どちらが正しいか。
小さな珠晶の、幼いがゆえに経験不足なところはあるものの、人としてまっとうなものの考え方と勇気にどんどん惹きつけられました。
危険な黄海の旅の様子も読みごたえがありました。
獰猛な妖魔がうろつく荒野を12歳の少女がひとりで歩いていけるわけもなく、彼女は途中で出会った頑丘(がんきゅう)と利広(りこう)という2人の男を護衛に旅をします。
黄海の危険を知り尽くす頑丘だからこそのものの考え方に反発する珠晶ですが、彼女も過酷な旅の中で成長していきます。
もともと頭は非常によい珠晶、自ら経験したことからすぐに必要な知識や知恵を学び取っていきます。
自分が間違っていた部分に気付けば、反省する柔軟さもあります。
そして何より、12歳の女の子には過酷すぎる旅だと思うのですが、珠晶は全く不平不満を口にしません。
大の大人でもへこたれてしまいそうな場面でも、いつも強気で前向きな珠晶の性格は持って生まれたものでしょうが、それに黄海の危険な旅で得た経験が加わることで、彼女の「王の器」は完成したのだと思います。
それを思うと、王になりたいと願う者が危険を冒して蓬山を登っていくというシステムは非常によくできているなと感心しました。
シリーズ中一番のパワーと小気味よさを感じた作品でした。
珠晶以外にも、特に利広は気になる人物だったので、ぜひ続編を読んでみたいところです。
でも陽子や泰麒など他にもたくさん気になるキャラクターはいるし…十二国記シリーズがなかなか完結しない理由がだんだん分かってきた気がします。
☆4つ。