tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『君の膵臓をたべたい』住野よる


ある日、高校生の僕は病院で一冊の文庫本を拾う。タイトルは「共病文庫」。それはクラスメイトである山内桜良が綴った、秘密の日記帳だった。そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もういくばくもないと書かれていて―。読後、きっとこのタイトルに涙する。「名前のない僕」と「日常のない彼女」が織りなす、大ベストセラー青春小説!

昨年の本屋大賞2位を獲得した大ヒット作品が早くも文庫化されました。
映画の公開が近づいてきているので、その前に読んでくださいね、ということですね。
この出版不況の時代に新人のデビュー作がベストセラーになり、さらには映画化するというのはすごいことだと思い、私も大いに期待して読んだのですが……ごめんなさい、私にはあまり合いませんでした。


何が合わなかったって、どうにも文章が合いませんでした。
主人公は読書好きで友達のいない男子高校生。
彼の語りで物語が進むのですが、高校生の話し言葉の中に時々「僥倖」のような難しめの硬い言葉が混じるのが、私にはかなり読みづらく感じられました。
主人公が読書好きという設定のため、年齢のわりには語彙力があるということを表そうとしてそんな文章になっているのかもしれませんが、ちょっとバランスが悪い気がします。
もともとはライトノベルの新人賞に応募していた作品とのことですが、それなら文章は軽めでも読みやすさを重視したほうがストーリーに集中できてよいのではないかと思いました。
比喩表現もくどさを感じましたし、主人公のセリフ回しもひねくれすぎていてあまり好感を持てませんでした。
また、具体的な固有名詞を使うことをかたくなに避けているのはなぜなのか、気になって仕方ありませんでした。
商標権に配慮しているとかであればわかりますが、主人公たちの旅行先の地名すら出さない (でもどこなのかは内容からすぐ分かる) 理由がさっぱりわかりません。
主人公の名前も終盤まで伏せられているのですが、こちらはしっかり意味があるので、他の固有名詞を伏せているのも何かの伏線なのだろうかと思ったのですが、最後まで読んでも結局意図は不明のままでした。
ちょっとしたことではありますが、気になり始めるとどんどん気になってしまうもので、もう少しさらりと読めればよかったのにと思ってしまいます。


肝心のストーリーですが、こちらは悪くないなと思いました。
何と言ってもこのインパクト抜群のタイトルは秀逸だと思います。
初見では思わずギョッとするタイトルですが、読んでみればなるほどそういう意味か、と腑に落ちます。
ただ、その意味を明かすのが早すぎるのではないかという気がしないでもありませんでしたが……。
それから、単なる闘病悲恋ものではないのも個人的には好印象でした。
ヒロインが難病で余命短い、というとどうしても『世界の中心で、愛をさけぶ』を連想しますが、「セカチュー」とは全く異なるテイストの物語です。
一応ラブストーリーといえなくもないのですが、むしろ高校生の友情と成長を描いた青春物語という印象の方が強く残りました。
主人公がヒロインとの奇妙な交流の果てに大切なことに気付き、新たな一歩を踏み出すラストシーンは、光にあふれていて爽やかです。
人間の命に突き付けられる理不尽な運命、という重い題材を、単純な悲劇として描いていないところがいいなと思いました。
さんざん「泣ける」と煽られているにもかかわらず、私はというと全く泣けなかったのですが (おそらく文章が合わなかったせい……)、必ずしも「泣く」=「感動」というわけではありませんし、読後感が重くも暗くもならず明るく爽快だったのはとてもよかったです。


トーリーが悪くないだけに、文章との相性が合わなかったのが残念です。
私のような文章で引っかかってしまったタイプには、映画の方が合っているかもしれませんね。
原作にない設定やエピソードが追加されているようですし、映画はまた別物として楽しめたらいいなと思います。
☆3つ。