tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『永遠の出口』森絵都

永遠の出口 (集英社文庫(日本))

永遠の出口 (集英社文庫(日本))


「私は、“永遠”という響きにめっぽう弱い子供だった。」誕生日会をめぐる小さな事件。黒魔女のように恐ろしい担任との闘い。ぐれかかった中学時代。バイト料で買った苺のケーキ。こてんぱんにくだけちった高校での初恋…。どこにでもいる普通の少女、紀子。小学三年から高校三年までの九年間を、七十年代、八十年代のエッセンスをちりばめて描いたベストセラー。第一回本屋大賞第四位作品。

去年初めて出会った作家さんの中で一番の収穫は森絵都さんの作品との出会いだったのかもしれないなぁ。
『アーモンド入りチョコレートのワルツ』も『つきのふね』もよかったけれど、初の大人向け長編であるこの『永遠の出口』、最高でした!!


「永遠」という言葉が苦手な紀子という一人の少女が、学校生活や家庭や友情や恋を通して、永遠など本当はどこにもないこと、永遠ではないものこそいとおしいということを知り、大人になっていく姿を描いた青春小説です。
青春小説だけあってとてもさわやかで、少し切なくて、かなり軽妙で笑わせてくれて、読んでいて本当に気持ちのいい小説でした。
本を読んでいてこんなに楽しいと思えたのは久々かも。
リズムがよく読みやすい文章に、ユーモアや皮肉やノスタルジーを贅沢に詰め込んで、読者を飽きさせず一気に読ませる筆力がすごい。
登場人物はみんな生き生きとしていて個性もきちんと書き分けられています。
中には嫌な人も登場するけれど、どことなくおかしみのある語り口のためか、憎めないし不快な気持ちになることもありません。
さらに、人物描写だけでなく風景描写も秀逸です。
特に注目すべきは「第六章 時の雨」で紀子が家族旅行先の大分で見たもみじの描写。
年頃の少女の繊細な感性で捉えられたもみじの美しさが、まるでそこにあるかのように余すことなく生き生きと描かれているのです。
読んでいて「今すぐこのもみじを見に大分へ行きたい」と思ってしまったほど(今もみじの季節じゃないのに・笑)
この第六章は意外な展開とあるできごとの面白さでストーリー的にも際立っています。
この章だけでも読む価値があると思います。


エピローグの最後の1ページではジンと感動させられました。
この作品で描かれていることは、別に特別なことでもなんでもない、そこら中にありふれていることばかりなんですよね。
でも、だからこそ、紀子の青春に自分のこれまでの道のりを重ね合わせることで、普段忙しい毎日の中で忘れてしまっている懐かしいものにもう一度触れることが出来るから、きっとこんなに読んでいて心地いいのでしょう。

 生きれば生きるほど人生は込み入って、子供の頃に描いた「大人」とは似ても似つかない自分が今も手探りをしているし、一寸先も見えない毎日の中ではのんきに<永遠>へ思いを馳せている暇もない。
 だけど、私は元気だ。まだ先へ進めるし、燃料も尽きていない。あいかわらずつまずいてばかりだけど、そのつまずきを今は恐れずに笑える。
 生きれば生きるだけ、なにはさておき、人は図太くもなっていくのだろう。
 どうかみんなもそうでありますように。


『永遠の出口』348ページ 4〜10行目

―きっと、「みんなもそう」ですよね。
思わず卒業アルバムを開いて眺めてみたり、卒業以来ご無沙汰している懐かしい人たちに会いに行きたくなる、素敵な本でした。
☆5つ。