tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ありがと。―あのころの宝もの十二話』ダ・ヴィンチ編集部(編)

ありがと。―あのころの宝もの十二話 (ダ・ヴィンチブックス)

ありがと。―あのころの宝もの十二話 (ダ・ヴィンチブックス)


恋愛、仕事、友情……生きていくことはとても苦しかったり、切なかったり、つらかったり。
でも、そんなときに、あなたを支えてくれるかけがえのない宝ものはありませんか?
誰に感謝するわけではないけれど、誰かに「ありがと。」と言いたくなるような出会いの物語、十二編。

前に読んだ『秘密。―私と私のあいだの十二話』(4/24の日記参照)がよかったのでこちらも期待して読みました。
でも『秘密。』ほどいいとは思えなかったかな…。
いや、イマイチと言うわけではないですよ。
人気の女性作家12人(狗飼恭子加納朋子久美沙織近藤史恵、島村洋子、中上紀、中山可穂藤野千夜前川麻子三浦しをん光原百合、横森理香/敬称略)の作品を取り揃えているだけあってどの作品も一定水準はクリアしていますから。
ただ、万人向けというわけではないかな、と。
若干恋愛小説にジャンルが偏り気味だし、内容的にも女性向けかな、と。


一番気に入ったのはやっぱり好きな作家である加納朋子さんの「モノレールねこ」ですね。
小学生の子どもが、半野良猫を介して短いメッセージの交換をするという物語です。
途中でちょっと悲しい出来事も起こりますが、ラストは思わず顔がニンマリ笑顔になってしまうこと間違いなし。
非常に読後感のよい作品です。
展開はちょっぴり読めちゃいましたけど。
この作品中に、佐藤さとるさんのファンタジー「コロボックルシリーズ」への言及があったのも私にはうれしいことでした。
きっと加納さんも子どもの頃夢中になって読まれたのでしょうね。
私も大好きだっただけに、同じ読書体験を持っていたということはうれしい発見でした。
同じく子どもの頃の読書体験が絡んでくるお話が、光原百合さんの「届いた絵本」。
誰もが知ってるあの名作が題材になっています。
きっと懐かしい気持ちになれますよ。
あとは、ネットオークションにハマる女性を描いた久美沙織さんの「賢者のオークション」は題材がとても面白いし、幼い頃に同年代の少女から受けた強烈な悪意を描いた近藤史恵さんの「窓の下には」は思わず背筋が寒くなるような「痛い」話だし、意外な結末が待ち受ける島村洋子さんの「ルージュ」や、大好きだったけれど気持ちを告げることすらできなかった男性の遺骨の一部を大切に持ち続ける女性を描く三浦しをんさんの「骨片」も面白い。
それぞれの作家さんの個性がよく出た短編集だと思います。
通勤電車の中などで、暇つぶしに気軽に読むのに向いていそう。
☆3つ。