tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『てるてるあした』加納朋子

てるてるあした (幻冬舎文庫)

てるてるあした (幻冬舎文庫)


親の夜逃げのために高校進学を諦めた照代。そんな彼女の元に差出人不明のメールが届き、女の子の幽霊が現れる。これらの謎が解ける時、照代を包む温かな真実が明らかになる。不思議な街「佐々良」で暮らし始めた照代の日々を、彼女を取り巻く人々との触れ合いと季節の移り変わりを通じて鮮明に描いた癒しと再生の物語。

加納朋子さんは大好きな作家さんの一人ですが、そう作品数が多い作家さんではないので、あまり読めないのがとても残念です。
この作品も久々に加納さんの作品を読めたなぁという感じだったのですが、やっぱり加納さんはいいと改めて思いました。


加納さんの作品の特長を一つ挙げるなら、それはやっぱり作品世界を包み込む温かさでしょう。
てるてるあした』は中学を卒業したばかりの少女・照代が、親の借金により夜逃げせざるを得なくなり、母の遠い親戚であるという厳格な元教師の久代の元に転がり込み、親とも友達とも離れて「佐々良」という田舎町で暮らし始める物語です。
『ささらさや』という作品と同じ街が舞台であり、同じ人物が登場しており、加納さんのファンにはとてもうれしい作品です。
特に『ささらさや』の主人公だったサヤが、佐々良の街で出会った人たちと共に元気に暮らしている様子が確認できたことはとてもうれしいことでした。
『ささらさや』で築かれたあの少し騒がしい、でもとても温かい人の輪が『てるてるあした』にも続いていて、照代もその輪の中に入っていきます。
根っからの悪人はいないけれど、いい人すぎるわけでもない、欠点もたくさんあって、失敗も繰り返す、そんな人間臭い人々の輪です。
人生のどん底とも思えるような苦難に遭い、頑なでひねくれた照代の心がこの人の輪によって少しずつ柔らかくなっていく過程に、こちらまで心が優しくほぐされてゆく気がしました。


最後の章を読み始めた時、電車の中で読んでいたのですが、嫌な予感がして読むのを中断し、自分の部屋に戻って一人になってから読みました。
案の定最後は涙があふれて止まらなくなりました。
でも、ボロボロ泣きながら、それでも明日は絶対に笑えると、心のどこかで不思議なくらい強い確信を持って思えるのです。
涙と同じ分だけ、元気も出たような気がするのです。
加納さんの作品にはそんな作品が多いと思います。
ハッピーエンドじゃなくても、切なくて涙が出ても、最後には元気と希望と勇気をもらえる。
だから私は加納さんの作品が大好きなのです。
形あるものは全て、いつか壊れ、消えてなくなってしまう。
でも、誰かからもらった温かい優しさの灯はきっと消えることなく、人生がどんなに悪い方向に転んだとしても、心の片隅に小さくても永遠に光を放ち続ける…。
今もし、打ちのめされて絶望して、人生に投げやりになっている人がいたら、ぜひこの作品を読んで欲しいと思います。
てるてるあした。きょうはないても、あしたはわらう。」
あなたの空も、いつかきっと晴れる日が来るから。
☆5つ。
加納作品ではおなじみの菊池健さんによる装丁画も素晴らしく、大満足の1冊でした。