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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『村上海賊の娘』和田竜

村上海賊の娘(一) (新潮文庫)

村上海賊の娘(一) (新潮文庫)

村上海賊の娘(二) (新潮文庫)

村上海賊の娘(二) (新潮文庫)

村上海賊の娘(三) (新潮文庫)

村上海賊の娘(三) (新潮文庫)

村上海賊の娘(四) (新潮文庫)

村上海賊の娘(四) (新潮文庫)


時は戦国。乱世にその名を轟かせた海賊衆がいた。村上海賊――。瀬戸内海の島々に根を張り、強勢を誇る当主の村上武吉。彼の剛勇と荒々しさを引き継いだのは、娘の景だった。海賊働きに明け暮れ、地元では嫁の貰い手のない悍婦で醜女。この姫が合戦前夜の難波へ向かう時、物語の幕が開く――。本屋大賞吉川英治文学新人賞ダブル受賞!木津川合戦の史実に基づく壮大な歴史巨編。

本屋大賞吉川英治文学新人賞を受賞しただけあって、歴史小説があまり得意とは言えない私にも、とても読みやすい作品でした。
個人的に、愛媛と広島へ旅行に行くタイミングで読めたのもちょうどよくて、舞台となる地名や登場する人物名を旅行先で見かけることもあり、より作品世界に親しみを感じることができました。


主人公の景 (きょう) は、16世紀に瀬戸内海で強い勢力を誇っていた村上海賊の当主・村上武吉の娘として生まれ、一応は「姫」と呼ばれる身分なのですが、性格は男勝りを超えて、海賊らしい残虐さを持っています。
海賊働きをして敵の首を容赦なく刎ねたりするので、最初のうちはなかなか感情移入が難しくて困りました。
ただ、当時の海賊 (武士も?) としてはそれが普通なんでしょうし、同じ海賊に輿入れしたいとか、端整なイケメンが好みだとか、戦の厳しさを理解しておらず情に流されるような部分があったりだとか、読み進めるうちに景姫の女性的な側面も見えてきて、少しずつ少しずつ彼女に共感できるところが増えていきました。
景姫は「醜女 (しこめ)」とされ、地の文でも醜女醜女と何度も繰り返されて気の毒になってくるぐらいなのですが、これはあくまで当時の美の基準から見た評価です。
南蛮風の目鼻立ちがはっきりした顔と、長身で細身だけれど胸は豊かという体型ですから、現代では美人と評されてもおかしくないのではと思います。
ただ、地元では醜女と評される景姫も、女性の美の基準が異なる泉州 (現在の大阪南部) に行くと途端に美人扱いされてちやほやされ、複数の男に夜這いまでかけられる、というくだりには笑ってしまいました。
景姫もそんな反応に気分よくならないはずもなく、調子に乗っているところがなんだか女子っぽくて可愛く思えました。
この泉州の海賊たちがまたなかなか面白くて、景姫に本気でプロポーズする真鍋七五三兵衛 (しめのひょうえ) をはじめとして、その父親、息子、家臣たちなど、みな個性的で、魅力的な人物ばかりです。
泉州の侍は武勇だけではだめで、「面白くないといけない」というところは、今の大阪のお笑い文化と繋がっているようでとても興味深いと思いました。


しかし何と言ってもこの作品の最大の見せ場は、終盤の村上海賊対泉州海賊の海上戦です。
さまざまな戦術を駆使してダイナミックな戦いが展開され、ハラハラドキドキものですが、なかなか残虐な描写も多くて好みは分かれそうなところでもあります。
といっても戦場とはそういうものであって、そのような描写を避けるとリアリティには欠けてしまうのかなとも思いました。
けれども、敵味方に分かれて戦ってはいても、互いに憎しみ合っているわけではなく、将たちも兵たちも戦いを心から楽しんでいるようなのが印象的でした。
敵であっても武術や戦法や武人としての姿勢が優れていると思えば素直に称え、決してただの殺し合いになっていないのはいいなと感じました。
歴史には詳しくないどころか受験知識程度しかない私ですが、戦国時代の武士や海賊たちの、戦に対する向き合い方が少しは理解できたように思います。
小説だときちんと心理描写がなされて、人物が記号ではなく立体的に見えてくるので、教科書のような無味乾燥な文章では抱きようのない興味をかきたてられます。
もし学生の頃に本作のような歴史小説を読んでいたら、もっと歴史に関心を持って勉強していたかもしれないと思いました。


歴史小説ではありますが、たびたび史料からの引用が挿入され、しっかり史実に基づいて書かれた作品だということが分かります。
それはとてもよかったのですが、途中七五三兵衛の発言に「ひと段落」という言葉が出てきたのには首を傾げてしまいました。
辞書を引いたら分かることですが、これは「一段落 (いちだんらく)」の誤読です。
近年は話し言葉を中心に受け入れられつつある言葉だとは思いますが、少なくとも本作の舞台となっている時代には「ひと段落」という言葉はなかったのではないかと思います。
他の部分は時代考証がしっかりしているという印象だったので、そこだけかなり違和感がありました。
でも、物語としては特に歴史好きというわけではない私にとっても読みやすく、面白かったです。
映像化にも向いていそうだけれど、残虐シーンをそのまま描写すると年齢制限がついてしまうし、その辺りをどうするかがちょっと難しいかもしれません。
☆4つ。