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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ストーリー・セラー』有川浩


妻の病名は、致死性脳劣化症候群。複雑な思考をすればするほど脳が劣化し、やがて死に至る不治の病。生きたければ、作家という仕事を辞めるしかない。医師に宣告された夫は妻に言った。「どんなひどいことになっても俺がいる。だから家に帰ろう」。妻は小説を書かない人生を選べるのか。極限に追い詰められた夫婦を描く、心震えるストーリー。

新潮社から発行されていた小説誌「Story Seller」に掲載された作品をSide Aとし、Side Bを書き下ろして1冊の長編とした作品です。
「Story Seller」の掲載分は読んでいたのですが、そこにどのような物語が追加されたのか気になって読んでみました。


Side Aについてはすでに感想を書いているので(下記の関連過去記事参照)あまり詳しくは触れませんが、再読した印象もあまり初読のそれと変わりありませんでした。
不治の病に侵され、家族内のトラブルに巻き込まれ――と苦難続きの中、揺らぐことのない夫婦の絆がうらやましく感じました。
また、「読む側」についての夫のセリフには、私も同じ「読む側」の人間として、大いに共感できました。

「『読む側』の俺たちは単純に自分の好きなもんが読みたいんだ。だから自分の好きじゃないもんに当たっても、それは外れだったって無視するだけなの。ベストセラーでも自分にとって外れのこともあるし、その逆もあるし。ただ自分が楽しめなかったもんはどんどん流していくの。さっさと次の当たり引きたいし、自分にとってつまんなかったもんにかかずらわってる暇なんかないの。そんな暇あったら次の面白いもん見つけたいの。時間は有限なんだ、当然だろ。自分にとっての外れなんか、さっさと忘れるだけだよ。覚えてるだけ脳の容量がもったいない」


63ページ 10~16行目より

中にはつまらなかった本につまらなかったと言わずにはおれない人もいて、酷評と批判ばかりのブログやレビューを見かけることもありますが、私は面白くなかったらその本はさっさと忘れてすぐ次の本に手を出すタイプです。
幸いなことに、忘れたいと思うくらい外れの本にはほとんど出会ったことがなく、大抵の本はそれなりに楽しめているのですが。
時間がもったいない、1冊でも多くの面白い本と出会うために時間を費やしたい、という感覚も全く同じ。
おそらく「本読み」としての有川さん自身がこういうスタンスなんだろうなと想像できて、私との共通点にうれしくなりました。


そして書き下ろしのSide Bは、今度は作家の妻ではなく、その夫の方が病魔に襲われるという話でした。
こちらもSide Aとはまた違った形で、「書ける側」の妻と、「読む側」の夫との強い絆を描いています。
ラストに出てくる「このお話は――どこまで本当なんですか?」というせりふがそのまま読者が抱く感想にもなるのが心憎いです。
ミステリではありませんが、ちょっとした謎を残した結末によって、読後の余韻が印象的なものとなっています。


Side AとB、ストーリーと読み心地は異なる2話ですが、どちらも本読みにはうらやましい設定や場面、共感できる部分がたくさんあります。
表紙はプレゼントのリボンですが、まさに有川さんという「ストーリー・セラー」からの、本と物語を愛する人への贈り物のような1冊だと思いました。
ブコメとしては有川さんの他の作品の方が断然好きだけれど、改めて物語っていいよね、それを紡ぎだす作家は素敵な職業だな、と思わせてくれました。
☆4つ。


●関連過去記事●
tonton.hatenablog.jp