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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『何者』朝井リョウ

何者 (新潮文庫)

何者 (新潮文庫)


就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。

朝井リョウさんの直木賞受賞作。
戦後最年少の受賞ということで、かなり話題になりました。
大学生の就職活動をテーマにした作品です。
就活を通して、自分は何者なのか、何者かになれるのかとあがく若者たちの姿が、リアリティたっぷりに描写されています。


やはり個人的には、「最近の就活ってこんな感じなんだ」という点がとても興味深かったです。
私はいわゆる「ロスジェネ」と呼ばれる世代で、超氷河期に就職活動を経験しました。
インターネットを使用した就活が本格的に始まった頃でもありました。
とにかく不況だったので求人自体が少ないため状況は厳しく、私も友人たちもみな苦戦して、長々と就活を続けていました。
今はさすがにそこまでの厳しさではないだろうと思っていたのですが、それでもやはり楽なものではないのですね。
きっとどんな時代であっても、就活というものはそれなりに厳しく大変なものなのだろうと、本作を読んでつくづく思わされました。
インターネットが普及したことによる大変さというのも大きいのだろうなと思います。
ネット経由で簡単に複数の企業に応募することが可能になり、どこの企業も志願者の数が膨れ上がっていると聞きますし、そうなると就活生としては競争率の高い試験に落ち続けることになる。
志望順位が高くなく、軽い気持ちで応募した企業であっても、「不合格」という通知を受け取るとやはりそれなりにダメージは受けるものでしょう。
つらい思いをしたくないなら応募する数を減らせばいいというようなものですが、周りの就活生がみなたくさんの企業を受験する中で、自分だけ数を絞るのは勇気が必要だと思います。


筆記試験で落ちるならともかく、面接で落とされると、自分を否定されたような気持ちになる、というのには、分かる分かると元就活生として非常に共感できました。
実際は相手の企業と相性が悪かったというだけで、「自分は社会から必要とされないダメ人間なのかもしれない」なんて思う必要は全くないのですが、就活中はなかなかそうは割り切れなくて、必要以上に思い悩んでしまうのですよね。
自分が就活をしていた頃のつらかったことを思いだして、何度も胸が苦しい気持ちに襲われました。
結局のところ、「自分は『何者』にもなれない」=「大した人間じゃない」ということを早く自分で認めて、現実と折り合いをつけられた者勝ちなんだろうなぁと、社会人になって何年も経つ今ならよく分かります。
この作品の主人公である拓人は、「『何者』でもない自分から目をそらすために他者を批判するかっこ悪い自分」を、同じ就活仲間から残酷な形で突き付けられることになりますが、ここまであからさまでなくても、誰でも最終的には自分の限界を悟り、ありのままの自分に向き合わされることになるのが就活と言えるかもしれません。
そして、何通もの不合格通知を受け取ること自体ではなくて、真実の自分と向き合い受け入れなくてはならないこと、それこそが実は一番就活でつらい部分なのでしょう。


もうひとつ本作で印象的だったのは、最近の大学生たちの、SNSとの付き合い方でした。
私が大学生の頃は就活はあってもSNSはありませんでしたから、この部分に関してはジェネレーションギャップを強く感じました。
現在私もツイッターをメインにSNSを利用してはいますが、大学生たちとは根本的に使い方が違うのかなという気がします。
友達と会っているその瞬間にもSNSに書き込みをするとか、周りに見せる用の表アカウントと本音をつぶやく裏アカウントとを使い分けるとか、どちらも私は考えもしなかった使い方が本作では当たり前のこととして描かれていました。
なんだか人間関係がややこしくなりそうで大変そうだなぁと思いましたが、当の大学生たちはそれなりにうまくSNSと付き合っているのでしょうか。
この点に関してはもっと他のSNSに関する本や記事を読んでみたいなぁと思いました。


自分自身が経験してきたことを思いだしたりして、なかなか客観的に読むのが難しい作品でしたが、ラストはほのかに希望が感じられてよかったです。
読者の世代によっていろんな感想がありそうな作品だとも思いました。
文章も軽すぎず重すぎずで、現代の大学生の間にある空気感をうまく表現していて読みやすかったです。
☆4つ。
最後に――現在就活真っ最中の人も、これから就活をする人も、みんな頑張れ!