tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ビブリア古書堂の事件手帖3 〜栞子さんと消えない絆〜』三上延


鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂は、その佇まいに似合わず様々な客が訪れる。すっかり常連の賑やかなあの人や、困惑するような珍客も。人々は懐かしい本に想いを込める。それらは予期せぬ人と人の絆を表出させることも。美しき女店主は頁をめくるように、古書に秘められたその「言葉」を読みとっていく。彼女と無骨な青年店員が、その妙なる絆を目の当たりにしたとき思うのは?絆はとても近いところにもあるのかもしれない―。これは“古書と絆”の物語。

人気シリーズの第3巻。
少しずつ物語が栞子さんと、栞子さんの母・智恵子との関係をめぐるものにシフトしてきたなという感じです。
その分シリアス度が増した気がしますが、ラノベレーベルらしい読みやすさは変わりありません。


相変わらず、取り上げる古書の紹介がうまいですね。
栞子さんがかなり丁寧にストーリーを語っている作品に関しても、巧妙にネタバレは避けているので、ついついその作品が気になって仕方ありません。
個人的には今回は宮澤賢治が取り上げられていたのがうれしかったです。
薀蓄もマニアック過ぎず、適度に盛り込まれていて満足できました。
「永訣の朝」は好きな詩なので、改めて本を入手して読んでみたいです。
ロバート・ヤングの『たんぽぽ娘』という作品も気になります。
もちろん、探して読もうと思うと、なかなか入手が難しそうな本もあるのですが、興味を持った本を苦労して探し出して読むというのも、読書好きの楽しみのひとつであり、それこそが古書の持つ魅力でもあります。
読書が好きな人、古書や古書店が好きな人には、とても魅力的な作品だと思います。
本や古書にそれほど詳しくない人もちゃんと登場するので、変にマニアックになっていないところもいいなと思います。
そうした古書の世界の魅力と謎解きがきれいに結びついているのも、また魅力的。
丁寧に伏線が張られ、その謎を栞子さんが時に鋭い推理力や洞察力を発揮しながら、でも決して派手な演出はなく淡々と丹念に解きほぐしていくのも、ミステリとしての基本をきっちり守っている感じで、非常に好感が持てます。
今回は前2作に比べると映像的な見せ場はあまりなく、ちょっと地味な印象もありましたが、古書店が舞台の、本にまつわるミステリなのですから、これくらい淡々としていても悪くはないなと思いました。


今回の3巻は、2巻でクローズアップされた栞子さん自身の抱える謎に、さらに踏み込んだ形になっています。
栞子さんの母・智恵子は今どこで何をしているのか。
その謎に関する部分が本書の最後に少し明らかになりましたが、これに関してはわりと露骨にヒントがあって、すぐにピンと来てしまったのが残念と言えば残念。
でも、もちろん今後もシリーズものとしてあと何巻かは続けるつもりなのでしょうから、これからのストーリー展開に対する布石がこの巻なのだと思いたいところです。
智恵子は今のところ、なんだかあまり印象がよろしくないというか、ちょっと悪役めいた感じもするのですが、もう少し五浦と栞子さんが智恵子に近づいたら、この印象がどのように変わるのか、はたまたあまり変わらないのか、気になって仕方ありません。
栞子さんの妹の文香がキーパーソンになるのかな…という気もしないでもないですが、さてどうでしょうか。
五浦と栞子さんの、距離が近づいたようで、あんまり近づいていないような微妙な関係の行く末も気になるところです。
すでに4巻も準備中とのことなので、楽しみに待ちたいと思います。
☆4つ。