tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ホルモー六景』万城目学

ホルモー六景 (角川文庫)

ホルモー六景 (角川文庫)


このごろ都にはやるもの。恋文、凡ちゃん、二人静。四神見える学舎の、威信を賭けます若人ら、負けて雄叫びなるものかと、今日も京にて狂になり、励むは御存知、是れ「ホルモー」。負けたら御存知、其れ「ホルモー」。このごろ都にはやるもの。元カレ、合コン、古長持。祇園祭宵山に、浴衣で駆けます若人ら、オニと戯れ空騒ぎ、友と戯れ阿呆踊り。四神見える王城の他に、今宵も干戈の響きあり。挑むは御存知、是れ「ホルモー」。負けたら御存知、其れ「ホルモー」。古今東西入り乱れ、神出鬼没の法螺試合、若者たちは恋歌い、魑魅魍魎は天翔る。京都の街に咲き誇る、百花繚乱恋模様。都大路に鳴り渡る、伝説復古の大号令。変幻自在の第二幕、その名も堂々『ホルモー六景』、ここに推参。

なんか上の内容紹介の文章がやたら凝ってるなぁ…(笑)
映画化もされた人気作『鴨川ホルモー』のスピンオフ作品です。


『鴨川ホルモー』がどういう作品であるか、ホルモーとはそもそもなんぞや、というところを知りたい人はとりあえず『鴨川ホルモー』を読んでいただくのが一番早いので、ここでは説明は割愛。
まぁ一言で言ってしまえば常人には理解し得ない(?)謎のサークル活動なのですが、そんな奇妙な活動に身を投じている大学生たち(&OB・OG)の日常にスポットライトを当てたのがこの短編集です。
人には言えないヘンなサークルに入ってヘンな競技に全力を注いでいても、素顔はみんな普通の若者です。
…そう、恋をしたいお年頃♪
というわけでホルモーをたしなむ大学生たちの恋愛を描いているのですが、ホルモーが非日常の極致であるのに対して、大学生たちの恋模様は至極普通。
…いや、ちょっと変わったパターンもあるかな?(汗)
時々ヘンな言葉やヘンな生き物が登場する以外は、至って普通の青春恋愛小説なのですが、どの短編もホルモーという非日常要素を上手く絡め、さらには京都という土地の利も十分に活かして、どれも面白かったです。


一番最初に収録されている「鴨川(小)ホルモー」は『鴨川ホルモー』の復習も兼ねていて、一番ホルモーらしい話と言えます。
恋愛をテーマにしているはずが、甘さは一切なく、笑えるコメディになっていて楽しく読めます。
かと思えば胸にじんと来る切ない話もあって、「もっちゃん」「同志社大学黄竜陣」「長持の恋」あたりは読後の余韻にしばらく浸っていたくなる名作だと思います。
特に「長持の恋」のラストには泣かされました。
「もっちゃん」と「同志社大学黄竜陣」はミステリ的な展開も楽しめて、ミステリ好きにはうれしい限り。
ちょっと途中で展開が読めてしまう部分も多かったのですが、それでも十分楽しめたし、どの作品も心地よい読後感でよかったです。


ただ、私は小学校5年まで京都で育ち、大学も京都だったのである程度の土地勘があり、いろいろと思い出もある場所だからこそ、作品の世界に感情移入できて楽しめるのかも、と思うところもあります。
京都に行ったこともないという人が読んだらどんな感想になるのか、ちょっと気になるところです。
ただ、物語の大筋は本当に普通の大学生の日常を描いているので、その部分に関しては誰もが共感しやすい作品であることは間違いないと思います。
森見登美彦さんのくせのある文体が苦手な人も、万城目さんの文章なら読みやすく万人向けと言えるのではないでしょうか。
☆4つ。




♪本日のタイトル:JUDY AND MARY 「KYOTO」 より