tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『天使と悪魔』ダン・ブラウン

天使と悪魔 (上) (角川文庫)

天使と悪魔 (上) (角川文庫)


天使と悪魔 (中) (角川文庫)

天使と悪魔 (中) (角川文庫)


天使と悪魔 (下) (角川文庫)

天使と悪魔 (下) (角川文庫)


ハーヴァード大の図像学者ラングドンはスイスの科学研究所長から電話を受け、ある紋章についての説明を求められる。それは十七世紀にガリレオが創設した科学者たちの秘密結社“イルミナティ”の伝説の紋章だった。紋章は男の死体の胸に焼印として押されていたのだという。殺された男は、最近極秘のうちに大量反物質の生成に成功した科学者だった。反物質はすでに殺人者に盗まれ、密かにヴァチカンに持込まれていた―。

ベストセラー作品『ダ・ヴィンチ・コード』よりも前に書かれた「ラングドン」シリーズ1作目です。
ダ・ヴィンチ・コード』と似た部分も多いですが、映画的な場面が多く楽しめました。
…と思っていたら本当に今年映画化されるんですね。
そんなことは全然知らなくて、某ブック○フで全巻100円で売っていたから読もうと思っただけなんですが(笑)


今回は科学と宗教の対立が描かれているのですが、その構図が分かりやすいので、相変わらずの専門用語やマニアックなトリビア満載でありながら非常にとっつきやすい物語になっています。
主人公のロバート・ラングドンが宗教や美術史についても丁寧に説明してくれるので、読み終わると少し知識がついたような気がするお得感もあります(もちろん気のせいでしょうけど…)。
科学についてもできるだけ分かりやすく噛み砕いて説明しようという作者の努力が見て取れて好感が持てます。
また、イルミナティという実在した秘密結社の謎や、イルミナティがローマに残した「道しるべ」の暗号や、ある著名な芸術家とイルミナティとの関わりや、イルミナティの対称形の紋章など、事実と想像とをうまくつなぎ合わせてもっともらしい謎解きを組み立てる作者の手腕には感心させられました。
ダ・ヴィンチ・コード』でもそうでしたが、よくこんなの考え付くなぁと。
歴史や美術史はもちろん、文学や数学の知識もなければいけないと思います。


それだけの数多くの専門的な要素を創作に利用できるというだけですごいと思いますが、ストーリー展開も冒険ミステリものの基礎をしっかり押さえていて面白いです。
個人的には『ダ・ヴィンチ・コード』よりもストーリーの展開の面白さはこの『天使と悪魔』の方が上ではないかと感じました。
物語前半から中盤にかけては暗号を解読して囚われの枢機卿たちを救出できるか、そして中盤から後半にかけてはヒロインのヴィットリアの救出と、反物質爆発の危機からバチカンを救えるのかという手に汗握る危機的状況が息をつく間もなく展開され、ラストにはこの事件の黒幕とイルミナティの正体に関する衝撃の真相が明らかにされます。
そして、ラングドンはスーパーマンもびっくりの八面六臂の怒涛の活躍ぶりを見せてくれます。
ダ・ヴィンチ・コード』では暗号を手に考えている場面が多かったような気がしますが、『天使と悪魔』でのラングドンはアクション映画のヒーローのごとき活躍で、映像的な見せ場がとても多くなっています。
相変わらずのご都合主義的な展開と、アメリカらしい絵に描いたようなハッピーエンドには突っ込みどころも多々ありますが、それはそれで面白く、映画も観てみたいなぁと思いました。
映画の公開が楽しみです。
☆5つ。