tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『奪取』真保裕一

奪取(上) (講談社文庫)

奪取(上) (講談社文庫)


奪取(下) (講談社文庫)

奪取(下) (講談社文庫)


偽札をつくりあげた者が勝利者となる!傑作長編
1260万円。友人の雅人がヤクザの街金にはめられて作った借金を返すため、大胆な偽札作りを2人で実行しようとする道郎・22歳。パソコンや機械に詳しい彼ならではのアイデアで、大金入手まであと一歩と迫ったが…。日本推理作家協会賞と山本周五郎賞をW受賞した、涙と笑いの傑作長編サスペンス!

真保さんらしい手に汗握る展開が繰り広げられる、ボリュームたっぷりのクライム・ノベルです。
スリルがありながらコメディータッチでとても楽しめる作品でした。


主人公の2人の青年が多額の借金を背負ったことから手を染めることになった犯罪は、偽札作り。
まずは、見栄えは一目で偽札と分かるものでありながら、銀行の両替機の紙幣識別機をパスすることのできる1万円札作りに着手します。
その後、謎のジジイとの出会いにより、見た目にも本物の1万円札と寸分変わらない偽札作りを目指すことになります。
印刷方法からインク、紙作りに至るまで、全てを本物の紙幣に極限まで近づけるため、長い年月と資金が費やされます。
その偽札作りの過程は、たかが…というと語弊がありますが、偽札を作るためにここまでするか!?という驚きに満ちています。
ご存知の通り、日本のお札には職人技とも言える印刷技術の粋が結集されています。
それをそっくり真似たものを作ろうというのですから、非常に苦労の多い、困難な道のりであるのは当然ですが、入念な計画と徹底した印刷技術研究に基づく偽札作りは、それが重犯罪であることをうっかり忘れそうになるほどわくわくさせられるものでした。
私は前職で印刷業に関わっていたのである程度の知識があるのですが、作者の非常に詳しく丁寧な印刷技術の解説には感心しました。
かなり勉強をし、綿密な取材をしなければ書けないだろうと思われるほどに、専門用語や知識が満載です。
それが少しとっつきにくくなっているような気もしましたが、よくここまでリアリティを追求したものだと思います。
いつの間にか主人公たちに感情移入して、無事に偽札が完成するだろうかとハラハラしている自分に気付きました。
困難と努力の果てに何かを作り上げるということは、それが偽札であろうと、とても面白く達成感のあることなんだなと思いました。


けれども偽札作りは割に合わない犯罪であるとはよく言ったもので、この作品の主人公たちもヤクザを相手に何度も危険な目に遭います。
一つの危機を脱してはまた新たな危機に直面し、手に汗握る展開が繰り広げられます。
そして最後には思わずへなへなとその場にへたり込んでしまいそうな、とんでもないどんでん返しも待っています。
おかげで900ページにものぼる大作でありながら、少しも飽きることなく読み進められました。
ラストのエピローグに仕掛けられた「オチ」にも、思わずにやりとさせられました。
ただ…とても面白く読めたのは確かですが、ヤクザがらみのアクション映画のような展開は個人的にはあまり好みではなかったのが少し残念です。
山本周五郎賞と日本推理作家協会賞をダブル受賞しただけあって、エンターテイメントとしての質の高さは疑いのないところなので、バイオレンスアクションもコメディーも好きだという人には文句なしにおすすめの作品です。
☆4つ。