tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『クローズド・ノート』雫井脩介

クローズド・ノート (角川文庫)

クローズド・ノート (角川文庫)


自室のクローゼットで見つけたノート。それが開かれたとき、私の日常は大きく変わりはじめる――。『犯人に告ぐ』の俊英が贈る、切なく暖かい、運命的なラブ・ストーリー。

去年映画化された…というくらいであまり予備知識もなく、雫井脩介さんの作品だからそれなりに面白いだろう、というくらいの気持ちで読み始めたのですが、思った以上に面白く読めました(失礼な言い方ですが…)。
特にこの作品で私の心を惹いたのは設定ですね。
細かい設定一つ一つが私にとっては共感の持てるものでした。


主人公の女の子、香恵はマンションで一人暮らしをする教育大学の2年生。
サークルで高校時代から続けているマンドリンを弾きつつ、文房具店でのアルバイトに精を出している。
そんなある日、自室のクローゼットの中から、前の住人が残していったと思われるノートやメッセージカードを発見する。
そのノートには、小学校の先生である持ち主の学級担任としての記録と、切ない恋の経過が綴られていた―。
この作品は主人公・香恵の1人称で書かれています。
作者は男性ですが、女子大生の1人称の文体に実に違和感がないのですよね。
ちょっとおっちょこちょいで、お調子者の香恵の人物像が容易に想像できます。
「午後ティー」など、細かい言葉遣いにも気を配って書いているなぁと感心しました。
サークル活動をして、バイトをして…と、適当に遊んではいるけど羽目を外すタイプではないというのも、平均的な教育大生らしいなぁと、元・教育大生の私としては懐かしく自分の大学生活を思い出したりしました。
また、香恵が見つける小学校の先生のノートに書かれた小学校担任の記録も、かなりリアリティが出せているのではないかと思います。
若い先生らしく、希望と使命感に満ち溢れた文章は素直に応援したくなりますし、休みの日に教え子やその家族に偶然会ってしまった時の気まずさというかとまどいも、世間一般の先生たちの心理そのものではないかと思います。
「先生の日記」をリアリティ溢れるものに出来た理由については、作者が巻末で種明かしをしてくれていますが、なるほどなぁと納得し、実体験から生まれてくる言葉の力に感心させられました。
このノートの内容がこの作品の魅力の全てだと言ってしまっても過言ではないくらい、とても生き生きとしたいい「日記」です。
それまで確固とした将来の目標など持っていなかった香恵が、小学校の先生になりたいという思いを強く持つようになるのも当然のことと思え、物語の説得力を増しています。


ただ、途中で展開が見えてしまったのはちょっと残念でした。
○○トリック(と呼んでもかまわないなら)としてはちょっと分かりやすすぎるかな、と。
恋愛小説だから別にかまわないかなという気もするのですが、ミステリも書いている作者だからこそ、もう少しひねりのある設定にしてもよかったのではないかと思います。
でも、展開は読めても、文章力のある作家さんなので、それなりに面白かったです。
終盤は何度か泣かされました。
単なる感動ものにするのではなく、ラストに落ちをつけているのも個人的には好印象です。
とても爽やかな気分で読み終えることができました。
学校の先生っていいなぁと思い、もう1回大学生をやりたいかも…なんて思ってしまう作品でした。
☆4つ。
そうそう、万年筆も欲しくなったなぁ。
1本持っていたのだけれど(安物だけど)、あれどこに行ったんだろう…(汗)




♪本日のタイトル:コブクロ「NOTE」より